技術革新は本当に長時間労働をなくすのか:“いま”が分かるビジネス塾(2/5 ページ)
残業の問題が生産性から来ているのだとすると、AI(人工知能)の普及はこの問題を一気に解決する救世主となるかもしれない。だがそのためには「時間」に対する考え方をもっと前向きに捉える必要がある……。
企業が生み出す付加価値の低さが長時間労働につながっている
多くの日本人が深夜まで職場に縛り付けられ、残業を強いられているのは、日本独特の企業文化が原因であるとの指摘は多い。確かに、集団主義的な仕事の進め方や、ガムシャラさを過剰に評価する風潮があるのは事実だろう。だが、こうした現象は経済的要因で発生している可能性がある。つまり、企業としてあまりもうかっていないので、ガムシャラにやらざるを得なくなり、結果としてそれが文化になっているパターンだ。
日本企業の生産性が低いことは以前から指摘されている。日本の労働生産性は先進主要国の中では突出して低く、仏国やドイツ、米国の生産性は日本の1.5倍もある。逆に考えれば、諸外国は同じ仕事を日本の7割の労力で行っていることになる。これは全てを平均した値なので、全体で3割も労力が少ないというのは相当な差と思った方がよい。ドイツの一般的な職場では「定時を過ぎて仕事をするなど考えられない」とよく言われるが、この数字を見れば誇張ではないことが分かる。
生産性の差が何からもたらされているのかという点について、もっとも大きいのは付加価値要因といわれる。つまり日本企業はもうからない仕事ばかりやっており、これが社員を追い詰めているのだ。逆に考えれば、企業がしっかりと利益を出す体質に変われれば、生産性は一気に向上する。
こうした状況を改善する手段としてにわかに注目を集めているのがAIの活用である。AIを本格的に導入した場合、人手をほとんどかけずに従来と同じ生産を維持できる可能性が見えてくる。そうなってくると、理論上、経済全体の生産性は格段に上昇する。
関連記事
- 加速するフィンテック なぜ銀行の既存ビジネスを破壊するのか
金融(ファイナンス)と技術(テクノロジー)を組み合わせたフィンテック。日本はこの分野では既に周回遅れになっているとも言われるが、徐々に環境は整備されつつある。フィンテックの現状について整理し、今後の展望について考えてみたい。 - 「渋滞予測」「異常検知」 2020年、テクノロジーは東京の安全をどう守るのか
近い将来、テクノロジーの進化によって、あらゆる“渋滞”をなくすことができるかもしれない――。いま、人(集団)の行動を分析して、渋滞や危険を予測する研究が進んでいる。 - 活躍できる職場をAIがレコメンド 人事業務の最適化で「輝ける人を増やす」
採用活動、人事配置などの人事業務は属人的な判断に頼る部分が多く、まだまだ合理化されていない領域の1つだ。そのような中、人事業務にテクノロジーを掛け合わせた「HRテック」(Human Resource Technology)と呼ばれる取り組みが本格化しつつある。 - 「残業(長時間労働)は仕方ない」はもうやめよう
電通の新入社員が過労自殺するという事件が起こり、話題になっている。政府はいま「働き方改革」を進めて長時間労働の是正に取り組んでいるが、繰り返されてきたこの問題を本当に解決できるのだろうか。労働問題の専門家、常見陽平氏に話を聞いた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.