技術革新は本当に長時間労働をなくすのか:“いま”が分かるビジネス塾(3/5 ページ)
残業の問題が生産性から来ているのだとすると、AI(人工知能)の普及はこの問題を一気に解決する救世主となるかもしれない。だがそのためには「時間」に対する考え方をもっと前向きに捉える必要がある……。
AIを導入すると資本だけで経済が回るようになる
経済学の理論では、経済成長は資本投下と労働投下の2つで決まるとされている。より多くの資本や労働を投下すれば、その分だけ生産量を増せるという仕組みである。
ところがAIが普及してくると、機械が人の代りに仕事をしてくれるので、必要な労働投下が少なくて済む。AIの性能が上がれば上がるほど、AIに対する資本投下だけで経済は回るようになってくるはずだ。つまり企業にとって多くの労働者は必要なくなってしまう。AIで仕事が奪われるという話を最近よく耳にするようになったが、理屈の上ではAIが普及すると、同じ経済を維持するために必要な労働者の数は減少する。
例えば営業の現場を考えてみよう。企業の中には営業管理システムを導入しているところもあるが、多くが営業マンのスケジュール管理や提案の進捗管理といった利用にとどまっている可能性が高い。こうした営業管理システムにAIが導入されれば、システムが営業の進捗状況を把握し、営業マンに対して支援を行うようになる。A社ついては、訪問回数が多い割に進捗が悪いので、新規開拓に時間を割いた方がよい――など、かなり具体的な指示をシステムが出してくるようになるはずだ。その組織が同じ業績を維持するために必要な営業マンの数は以前より少なくて済む。
米国では既に現場への導入が進んでいるが、あらゆる文書(資料)作成もAIがサポートしてくれるようになるだろう。
必要な資料をランダムにシステムに読み込ませるとAIが内容を理解し、勝手にタグ付けや分類などを行ってくれる。パンフレットを作りたいと指示を出せば、必要な資料をシステム側がそろえてくれるという仕組みだ。パンフレットをそのまま完成させてくれるほど現在のAIは賢くないが、作成する資料のラフ原稿くらいまでAIが作成するようになるのは時間の問題である。ここでも必要な管理部門の社員数は以前より減少することになるだろう。
関連記事
- 加速するフィンテック なぜ銀行の既存ビジネスを破壊するのか
金融(ファイナンス)と技術(テクノロジー)を組み合わせたフィンテック。日本はこの分野では既に周回遅れになっているとも言われるが、徐々に環境は整備されつつある。フィンテックの現状について整理し、今後の展望について考えてみたい。 - 「渋滞予測」「異常検知」 2020年、テクノロジーは東京の安全をどう守るのか
近い将来、テクノロジーの進化によって、あらゆる“渋滞”をなくすことができるかもしれない――。いま、人(集団)の行動を分析して、渋滞や危険を予測する研究が進んでいる。 - 活躍できる職場をAIがレコメンド 人事業務の最適化で「輝ける人を増やす」
採用活動、人事配置などの人事業務は属人的な判断に頼る部分が多く、まだまだ合理化されていない領域の1つだ。そのような中、人事業務にテクノロジーを掛け合わせた「HRテック」(Human Resource Technology)と呼ばれる取り組みが本格化しつつある。 - 「残業(長時間労働)は仕方ない」はもうやめよう
電通の新入社員が過労自殺するという事件が起こり、話題になっている。政府はいま「働き方改革」を進めて長時間労働の是正に取り組んでいるが、繰り返されてきたこの問題を本当に解決できるのだろうか。労働問題の専門家、常見陽平氏に話を聞いた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.