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技術革新は本当に長時間労働をなくすのか:“いま”が分かるビジネス塾(4/5 ページ)
残業の問題が生産性から来ているのだとすると、AI(人工知能)の普及はこの問題を一気に解決する救世主となるかもしれない。だがそのためには「時間」に対する考え方をもっと前向きに捉える必要がある……。
AIの普及で現場の生産性は上がるのか
AIといってもしょせんはツールである。これらの話は、PCがオフィスに普及した90年代と同じことが起こっているにすぎない。それまで、全てが手書きであった資料がPCの導入で一気にデジタル化し、文書作成にかかる時間は劇的に減った。AI時代は、対象範囲が広くなり、ツールでカバーできる業務がより高度化するという違いが生じるだけである。
ここで問題となってくるのが、ツールの導入で空いた時間や余った人材をどう活用するのかである。せっかくシステムを導入しても、余った時間を“無意味な”書類の書き直しや雑談・会議に使っていたのでは生産性は向上しない。むしろIT投資の費用分だけ、利益率は減少してしまうだろう。空いた時間や余った人材については、新しい稼ぎを生み出すためのリソースとして活用しなければ、組織全体として生産性の絶対値は増えないのだ。
日本企業において情報システムの投資効率が悪いのは、システムが提供する効率的な業務フローに現場の業務を合わせようとせず、逆にシステムの方を現場の業務に合わせて改変してしまうことが一因になっているとの指摘は以前から根強い。
16年版の労働経済白書では、日本と他の先進各国で生産性に大きな差がついた原因の1つにIT投資の少なさを挙げている。もちろん絶対量の違いもあるだろうが、最大の問題はIT化によって得られた余裕をどう活用するかといった部分であると考えられる。
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