技術革新は本当に長時間労働をなくすのか:“いま”が分かるビジネス塾(5/5 ページ)
残業の問題が生産性から来ているのだとすると、AI(人工知能)の普及はこの問題を一気に解決する救世主となるかもしれない。だがそのためには「時間」に対する考え方をもっと前向きに捉える必要がある……。
AIの導入で空いた時間をどう使うのか
AI時代になれば、90年代よりもはるかに広範囲でAIによる仕事の代替が進み、多くの余剰人員が発生するだろう。この余剰人員をどう利益に変えていくのかが企業にとって大きな分かれ目となる。企業で働く個人にとっては、AIの導入で空いた時間をどう使うのか、今の段階から真剣に考えておく必要があるはずだ。
例えば営業マンであれば、1日あたりの労働時間が1時間短くなったと仮定し、その1時間を使って自らの営業成績を大きく伸ばすには何をすべきか真剣に考えてみるとよい。営業日報をより細かく書いたところで売り上げが伸びないことは明白である。外に向かってより多くのモノやサービスを売らなければ、業績にはつながらない。
こうした取り組みを組織全員で行うことができれば、余った労働力を新しい付加価値の創造に回し、企業は利益を上げることができるようになる。利益がしっかり出ていれば、無意味な長時間労働からは解放されるはずだ。同時にAIによって仕事が奪われるという過度な心配も必要なくなるだろう。
余った時間は全て稼ぐために費やすというのがビジネスの鉄則である。多くの日本企業は組織の制度疲労が進み、こうした原理原則を忘れてしまっている。AIの普及は、ビジネスの基礎を再認識するよい機会と捉えるべきだろう。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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