これから起こる「トランプリスク」とは:マネーの達人(3/6 ページ)
ドナルド・トランプ氏が米国の第45代大統領に決まりました。選挙期間中の発言をもとに、トランプ氏が大統領に就任した際のリスクを考えてみましょう。
米国ファースト
グローバリゼーションの対極にあるのが、「米国ファースト」なのかもしれません。もっとも、この言葉にはいろんな意味が含まれており、使う人によってその内容は異なります。
ただこの言葉は、ミシガン州やウィスコンシン州などの「ラストベルト(さびた工業地帯)」と呼ばれる地域の人たちに大きな影響を与え、投票につながったことは間違いないでしょう。
米国ファーストに関しては、ネオコンと呼ばれる共和党支持勢力である新保守主義の中でもさまざまな意見があります。その一部の勢力がトランプ氏の政策に取り入れたという話もありますが、本稿ではそのあたりは深堀りせず、あくまでもそれがもたらす米国の利益優先という考え方にフォーカスしていきます。
トランプ氏の政策を語る上で、これらの勢力はとても重要な要素であることは間違いありません。
「トランプ氏が勝てば、株価は暴落、ドルは売られる」と言われていたが……
選挙でトランプ氏が勝利しましたが、なぜ株価は暴落せずに上がり、ドルは急落しないで買われているのでしょうか。
トランプ氏は、「これまでオバマ大統領が行ってきた金融機関への締め付けを取っ払う」と選挙期間中に言っていたからだと思われます。金融機関への行動の縛りを取っ払い、銀行と証券の垣根を作り、自分たちが自由に投資できる枠を制限してきたものを自由にするという感じです。その思惑から、銀行株が大きく上昇してきました。
また、「国内産業を活性化させる」と発言していたので、石炭などの資源活用、インフラ支出の拡大を見込んで工業株や素材株も上昇しています。
保護政策を取ることから、国内向け政策に重点をおき、財政出動が拡大すると見られます。それは、公共事業を増やし雇用を増やすことにつながります。そうすることで賃金が上がり、インフレにつながります。インフレになれば、FRB(連邦制度準備理事会)は金利を引き上げるという連想が働き、国債が売られ足元の長期金利が上昇し、金利差でドルが買われるという状況になっているようです。
「意外とトランプ氏ってまともじゃん」
勝利宣言の演説ではそれまでの過激発言は鳴りを潜め、国民に寄り添う姿勢を見せたのも好感されたようです。
何より、トランプ効果と呼ばれる今の現象を一番喜んでいるのは日銀の黒田総裁ではないでしょうか。日銀がいろんな政策を打ち出してもマーケットはなかなか反応してくれず、円安も思ったようには進まなかったところで、トランプ統領の誕生で一気に円安が進み、日本株が大きく上昇しました。
日本銀行にとってトランプ大統領の誕生は、“神風”が吹いたような感覚かもしれません。
ここにきて日銀の長期金利0%維持の効果がでる
米国はインフレへの期待から長期金利が大きく上昇しました。日本は現在、長期金利0%ですから、日米の金利差が拡大し円安が加速しやすくなります。
正確に言えば、円安ではなくドル高です。金利差でドルが買われ、そこにリスクオンで円が売られるという、ある意味相乗効果でのドル/円110円台突入と言えるでしょう。
しかし、よく考えてみると「トランプ氏はまだ何もしていない」のです。つまり、行動や発言などで、批判されることはないということです。それゆえ、現在のマーケットは、選挙中の政策にまつわる話や思惑だけで動いているということです。
これは、アベノミクスの初期の動きとまったく同じです。安倍政権が実際に行動する前が、株価は最も上昇し、円安が進みました。
思惑でマーケットは動きます。アベノミクスも、実際に動いてからの批判が多く、ほころびも露呈してきました。トランプ氏の評価は、2017年、実際に動き出してからということになります。
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