もしトヨタがドラッカー理論をカイゼンしたら:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
従来から「トヨタ生産方式」という名のカイゼンに取り組んできたトヨタが、さらなるカイゼンに向けて『TOYOTA NEXT』という事業企画公募をスタートした。その真意は――。
トヨタの変化の本質
本来、業績への興味と人への興味は事業の両輪であり、どちらか1つでは走れない。業績を作るのは人であり、人は業績を原資に雇われる。トヨタ自身がどう考えているかは別として、トヨタという企業が持つパブリックイメージは、恐らく圧倒的に業績重視に見えているはずだ。例えば、かつて日米自動車貿易摩擦のころ、日本人は「エコノミックアニマル」という不名誉な呼ばれ方をした。もちろんそれがトヨタ一人だけのせいだと言う気はないが、かと言って、トヨタが例外であったとは考え難い。
しかし、昨年からのトヨタの動きを見ると、どうもそういうパブリックイメージを改めようとしているのではないかと思えるのである。マツダやスズキとのアライアンスは、これまでのトヨタのやり方と違う。協業相手としてリスペクトを払い、長期的に利益をシェアするパートナーとして扱おうとしているように見える。
そして、今回の事業企画公募だ。プロジェクトを立ち上げられる人材を、日本の企業は自前で育ててきた。新卒で右も左も分からないところから20年かけてプロジェクトが回せるマネジャーを作り上げるやり方だった。しかし、雇用ピラミッドが崩れ、事業展開の速度が求められるようになると、そんな悠長な話では時代についていかれない。もっと前からスピードを求められるIT業界や製薬業界などでは、ずっと前からおもしろい可能性のある企業を青田刈りして投資し、やがて吸収合併して、自分の血肉にしていくということが当たり前に行われてきた。
よく言えば保守本流、悪く言えばオールドインダストリーの代表である自動車メーカー、しかもナンバーワンのトヨタが、ついに外に事業プランを求め始めたことは、日本の産業の変化として非常に印象深い事件である。
認めたくはないが、日本の自動車産業はその面で、大きく遅れていた。トヨタの発言にも現れている。「このジャンルではトヨタは平均値に達していない。パートナーをリスペクトして知恵を借りるというつもりで取り組む」と言うのだ。
さて一体トヨタは何を求めているのか? それは応募条件と募集テーマを見れば分かる。
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