もしトヨタがドラッカー理論をカイゼンしたら:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
従来から「トヨタ生産方式」という名のカイゼンに取り組んできたトヨタが、さらなるカイゼンに向けて『TOYOTA NEXT』という事業企画公募をスタートした。その真意は――。
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当然トヨタは、このベンチャー事業が成功したら事業を買収することを視野に入れているが、それはどんなベンチャー投資でも当たり前に行われていることで、それをそしるのは「金は出せ、口は出すな」と言っているに等しく、ビジネス常識に照らしてあり得ない。
しかし、一方で今世間を騒がせているDeNAのような問題もある。非対称な取引構造に乗じて、弱者を搾取するようなやり方だ。仮にトヨタがこうして事業プランを公募した上で、アンフェアな金額を払って事業を召し上げてしまうようなことがあれば、こうしたオープンイノベーション事業全体の大きなイメージダウンにつながる。
しかし、筆者はそうならないだろうと考えている。トヨタは自前主義だけでこれからの難局を切り抜けていくことができないという判断の上で、今回こうした外部からのアイデアを取り入れる施策を打ったのだ。信用を失えば、以後誰もトヨタに事業プランを持ち込まなくなるだろう。それが分からないトヨタではあるまい。
ネクスト・ソサエティ
この流れを考えていくと、外部からの事業公募は、トヨタにとっていかに破壊的なイノベーションかということが分かる。IT企業などの前例を見れば、小さくユニークなビジネスを買い上げた会社は、その立案者を経営陣に迎え入れるケースが多い。優れた事業プランにはそれだけの価値があるし、またそれをさらに改革していくことを考えれば、イノベーターを内部に取り込まないと回っていかない。もしこの公募によって、トヨタの未来が変わるほどのプランが現れたとしたら、新卒以来30年も40年も頑張って、一握りの勝ち組が役員になる日本の雇用習慣が変わるかもしれない。
企画書を提出した無名の誰かが、5年後にトヨタの役員になっている可能性はゼロではなくなった。もし本当にそうなれば、それはドラッカーが2002年に予言した『ネクスト・ソサエティ』の実現である。「知識は資金よりも容易に移動するがゆえに、いかなる境界もない社会となる」。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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