なぜそこに駅はできるのか?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/3 ページ)
今年3月から4月にかけて、全国で6つの駅が開業する。共通点は「請願駅」だ。地元の自治体が鉄道会社に働きかけ、費用負担を条件に駅を設置する。鉄道会社にとっては受け身な方法と言える。もっと積極的に、戦略的に駅を設置しても良いと思う。
駅を増やす可能性、駅を残す可能性
三河塩津駅と摩耶駅、たった2つのサンプルだけでは判断しかねるとはいえ、駅を設置可能な最低限の条件はうかがえる。乗客数が2000人を下回ってもいいし、駅間距離が1キロメートルを切っても駅を作れる。ただし、そのままの条件ではなく、ほかに按分すべき材料があれば、という話になる。
それでも、新駅を設置する可能性は見えた。駅間距離で言えば、JRグループが国鉄から引き継いだ幹線は大手私鉄より長い。なぜなら、国鉄時代に作られた幹線は蒸気機関車の運転を前提にしているからだ。蒸気機関車と客車の組み合わせは、加速に時間がかかり、ブレーキの性能も電車より低い。効率良く走らせようとすれば、駅間距離は長く取りたい。
しかし、電車の場合は発車も停車も素早い。だから駅間距離を詰められる。旧国鉄の本線に比べて、併走する私鉄の駅間が短い。これはもちろん、長距離都市間輸送の国鉄路線と、地域密着型の電鉄線という役割分担も一因だ。しかし、そうなった背景には、蒸気機関車前提の路線と電車前提の路線という違いもある。
何が言いたいかというと、蒸気機関車が一掃され、電車のみになった旧国鉄幹線は、駅間距離をもっと詰められる。つまり、新駅設置の可能性がある。自治体が請願駅を要請すれば、確かにコストは下げられる。しかし、JRは多角経営が可能だから、かつて阪急や東急がやったように、沿線開発込みで駅を設置し、不動産と運輸収入の総取りを狙うという戦略が成立する。分かりやすい例が山手線、京浜東北線の田町駅〜品川駅間の新駅だ。
旧国鉄幹線で、大都市に近く、駅間距離が長い地域。ここにはチャンスがある。
自治体が沿線開発込みで請願駅を作る場合はどうか。建設費を負担するといっても、鉄道会社が積極的になってくれない。そんなときは、駅だけ上下分離という提案はどうか。そもそも、空港も港湾も、欲する自治体が整備するにもかかわらず、駅だけが鉄道会社負担とは不公平だ……という考え方もある。駅の建設、維持などはすべて自治体側で所有、運営し、鉄道会社は乗降客数に応じた駅施設使用料を支払う。これなら鉄道会社の負担は小さく、駅の設置のハードルを下げられる。
この考え方は、駅の設置だけではなく、廃止検討中の駅の見直しにも通用する。お客が少ないから廃止ではなく、駅周辺の利益を含めた開発に鉄道会社も参画する。もう一踏ん張りすれば、現在は過疎な駅でも、もしかしたら可能性がありそうだ。駅は財産である。簡単に手放してはいけない。
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