すべては笑顔のため「鉄旅オブザイヤー'16」:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)
2016年に開催された鉄道旅行商品を表彰する「鉄旅オブザイヤー2016」の表彰式が行われた。今年はDC賞、ベストアマチュア賞も創設されて盛り上がった。受賞を逃した作品にも素晴らしい企画があった。審査は楽しく、そして悩ましいところもある。
みかんみかんみかんみかんみかん
惜しくも受賞を逃した作品も、佳作が多く甲乙つけがたい。応募書類は規定のエントリーシートのほかに、募集パンフレットや手作りのレポートが添えられる。点数には悩むけれども、選考作業は楽しい。読むだけでも旅をした気分になる。
今回、どうしても紹介したい落選作品がある。JTBコーポレートセールスの「東大みかん愛好会×NPO法人湘南スタイル×JTB『お座敷列車で行く!みかん列車の旅』」だ。2015年12月5日開催の日帰りツアーだった。大人9800円。小人7800円。販売実績は116人。そのうち、34人は婚活イベント参加者、16人は某信用金庫の社員旅行だった。
神奈川県産の果実出荷第1位はみかん。そう言えば、かつては東京市中に出回るみかんは神奈川産が多かった。しかし現在の知名度はいまひとつ。そこで、貴重な地域資源のプロモーションと、高齢化するみかん農家の支援を目的に開催された。東京発小田原行きのお座敷列車に乗り、車内で湘南みかんを使ったお弁当と東大みかん愛好会主催のみかん検定、みかんジャグリングなどを楽しむ。みかん農園でみかん収穫体験。お土産にみかん2キログラム付き。小田原城では、みかんの皮で手裏剣を作って遊ぶ。みかんピールアート教室……とにかくみかんづくしだ。
規定のエントリーシートにはみかんみかんみかん……。どんだけ「みかん」なんだ。読んでいるうちに笑いがこみ上げる。審査中に笑うなんて今回が初めてだ。次第に「みかんってなんだっけ」とゲシュタルト崩壊を起こしかけ、中断して近所のスーパーにみかんを買いに行ってしまった。改めて数えたらA4用紙1枚の応募用紙に「みかん」は22回も出てきた。内部資料はお見せできないけれど、代わりにプレスリリースを紹介しよう。ここでは「みかん」が45個も出てくる。
もうだめだ。こういうのが腹筋崩壊っていうんだ。その内容から、みかんへの愛情、旅の楽しさが伝わってくる。お座敷列車の車内は柑橘系の香りで満ちていたことだろう。みかん好きには幸せな空間に違いない。素晴らしい旅だ。
しかし、鉄旅オブザイヤー審査員としては、ポイントを加算できる要素が少ない。お座敷列車で小田原へ行く。車内でお弁当とアトラクションがある。それだけだった。しかも帰りの列車は用意されない。きっぷだけ渡されて「用が済んだなら勝手に帰っていいよ」である。宿泊オプションもあるとはいえ、この突き放しっぷりも、かえって清々しい。
こんなにおもしろい、目的のハッキリした旅なんだけど、鉄旅としては加点できない。審査しながら悔しくなった。個人的には「みかん旅オブザイヤー」のグランプリを進呈したい。
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