すべては笑顔のため「鉄旅オブザイヤー'16」:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)
2016年に開催された鉄道旅行商品を表彰する「鉄旅オブザイヤー2016」の表彰式が行われた。今年はDC賞、ベストアマチュア賞も創設されて盛り上がった。受賞を逃した作品にも素晴らしい企画があった。審査は楽しく、そして悩ましいところもある。
お客さまの笑顔のために
応募作品はどれも成功作ばかりだ。受賞しなかった作品がダメというわけではない。集客もできているし、ビジネスとしては十分に評価されている。では、鉄旅オブザイヤーの価値とはなんだろう。航空チケットも宿も個人で手軽に手配できる時代、旅行会社としては「旅のプロ」のプライドをかけて企画旅行を作る。その努力を称え、広く知らしめていく。それが賞の意味であり価値だろう。
例えば、JTBメディアリテーリングの「一度やってみたいJR飯田線全線乗車」は、名古屋から新幹線で豊橋へ行き、飯田線の全区間直通電車に約7時間の乗りっぱなし。帰りはワイドビューしなので名古屋に戻る。添乗員のキャラクターがおもしろければ盛り上がるだろうけれど、行程そのものは個人でも実現可能だ。ツアーである必要はなさそうだ。そうなると、当然、審査の点数も厳しくなる。
しかし、エントリーシートの実施後の感想欄は興味深かった。お客さまの半分は女性の一人旅。このツアーがきっかけで互いに仲良くなった様子。添乗員は乗り鉄さんだったようだけど、それにしては「この旅の新幹線と特急利用は邪道ではないかとご意見をいただいた」とある。クレームではなく、はやし立てられたようだ。盛り上がった様子がうかがえる。そうでなければ応募できないはずだ。
同好の士を集めると盛り上がる。友達が増える。つながりができる。これは個人旅行ではできない。企画旅行ならではの体験だ。その意味で「JR飯田線全線乗車」だけの鉄旅ツアーにも価値はある。この企画書はそれを気付かせてくれた。
長くなるので、すべてを紹介できないけれど、どの企画も感想欄はおもしろくてためになる。お客さまにとって、参加した旅はすべて良い旅だった。私たちの賞も意味があると自負するけれど、旅行会社にとって、お客さまの笑顔こそがもっとも大切な賞だと思う。
今年はJR東日本とJR西日本から新たな観光列車が走り始める。デスティネーションキャンペーンは京都、四国、長野、山口だ。鉄道の旅は今年も楽しくなりそうだ。新しい旅、新しいアイデアに期待したい。
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