「コケても興収10億円」中国映画の急成長:海賊版とダフ屋があっても伸びる(2/3 ページ)
「君の名は。」の中国展開が好調だったが、実は中国の映画産業は、年々成長を続けている。中国の映画産業に何が起こっているのか? 中国とビジネスをしていくうえでどんなことが必要とされるのか? 「君の名は。」の中国展開を担った柏口之宏代表取締役に聞いた。
市場変動制で巻き起こる激しい競争
「中国のアニメ作品って質が悪いんでしょ?――と思っている方は少なくないと思いますが、きっと『西遊記』を見たら見方が変わります。中国の映画館は激戦区で、品質が悪いものはあっという間に淘汰されます」
中国の映画料金は“市場変動制”だ。劇場が連日満員ならチケットは高騰する。逆に当たらなかった作品のチケット料金は安くなっていく。その差は1000円以上になるという。中国は日本と同じくシネマコンプレックス(シネコン)が多く、映画が当たれば莫大にもうかり、外れても「安いので見に行く」という客をつかむことができる。
この料金制度は、Web上でチケットを買うシステムが構築されてから定着した。それ以前は、いわゆるダフ屋が正規のチケットを買い占め、それを売り出すスタイルが日常化していた。インターネットの普及により、その方式が正式なシステムとなったという。ちなみに、今でも窓口で買うとチケットは高くなる。
さらに、お国柄ならではの事情がある。日本のビジネスモデルでは、チケット代だけではなく、グッズや映像ソフトなどで回収していくことがある。しかし中国では、どちらもすぐに海賊版が出回ってしまうため、「興行収入で回収しきるしかない」という考えになる。
日本では、“当たったドラマを映画化”というやり方が一般的になっている。しかし中国は逆。映画で稼ぎきるために、1つの宣伝ツールとしてテレビドラマを制作する方式が生まれているほどなのだ。
映画館一極集中の戦いを勝ち抜くために、ITツールの活用も進んでいる。中国映画配給会社大手のエンライトには、Weibo(中国版TwitterのようなSNS)の口コミ数や、検索サービスBaiduでの指標を計測するツールがあり、興収の予測をかなり高い精度で行えるようになっている。
日本ではどうだろう。かつては「チケットぴあ」などでの前売り券の販売数で興収を予測することができたが、チケットの販路が複雑になったため、その方法は使えなくなってきている。グリーやモバゲーなどのIT企業がデータサイエンティストを採用し始める動きもあるが、多くの企業ではまだまだアナログで勘に頼った予測を行っているのが現状だ。
「Weiboを毎日見ていると、中国ファンのネガティブな反応もポジティブな感想も全て見ることができる。今回『君の名は。』の興行で、“これくらい反応があれば、これだけヒットするんだな”ということを体感できたのは、非常に貴重な体験でした」
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