スイス老舗観光スポットの集客が好調な理由:勢い増すユングフラウヨッホ(1/5 ページ)
スイスは山岳観光が昔から盛んだ。中でもユングフラウヨッホは100年超の歴史があり、多くの人々が訪れる観光名所となっている。特に近年は国外からの訪問者数を勢いよく伸ばしている。その背景を現地で探った。
スイスと聞いて読者の皆さんは何を頭に思い浮かべるだろうか。見渡す限り広がるスイスアルプスの名峰や森林、美しい湖、エーデルワイスやアルペンローゼの花々、広大な牧草地でくつろぐ牛や羊たち……。そんな光景を目の当たりにすると「きっと向こうにハイジとペーターがいる」と胸がときめいてしまう。
こうした魅力的な自然はスイスの観光資源でもある。スイス観光産業の収益は2012年時点で345億フラン(約3兆9594億円)、国内総生産の約6%を占める。世界経済フォーラム「旅行・観光競争力レポート 2015年版」によると、スイスは総合順位を落としつつも6位(日本は9位)、入国者数は920万人とある。スイスの人口は約820万人なので、人口を上回る観光客を国外から招き入れていることになる。
スイス全体における観光客の国籍を見ると、スイス国内からが4割超で安定しており、ドイツを筆頭に近隣のヨーロッパ諸国からが約3割。近年の傾向を見るとヨーロッパ諸国や日本は減少傾向にある一方、(スイス政府観光局が力を入れている)インドや中国などからの観光客が伸びている。観光地では中東の富裕層らしき観光客もちらほらと目にする。
なぜ人々はスイスに訪れたくなるのか。スイスの観光産業には長い時間をかけて育んできた成熟さと洗練さがある。自然の景観イメージをブランドのように定着させ、宿泊や娯楽のためのハイクオリティな施設を充実させ、交通手段も整備し、多くの観光客を受け入れている。スイス観光をタレントに例えるなら、自身のキャラを確立し、ハイクオリティな芸風で次々と仕事をこなし、それでいて日々の鍛錬も欠かせないベテランといったところだろうか。
本来、自然は険しいものだ。近づこうとするならそれなりの時間や体力を必要とする。しかし、スイスはアルピニズムブームを背景に20世紀初頭ごろには鉄道や道路など山岳交通網を整備し、早くから山岳観光をビジネスして育ててきた歴史がある。開業から100年を過ぎた山岳鉄道路線も少なくない。
実は、スイスの山岳観光は日本とゆかりがある。1873年、明治政府が派遣した岩倉使節団はスイスに入国し、訪問地の中にはリギ登山鉄道山頂駅の開通式典もあった。また、箱根登山鉄道はスイスの旧ベルニナ鉄道をモデルにしており、1979年にその流れをくむレーティッシュ鉄道との姉妹鉄道提携を締結しているのだ。
明治以降には日本にアルピニズムが流入し、1910年に加賀正太郎氏(ニッカウヰスキー出資者の1人)が日本人初のユングフラウ山登頂、1926年に秩父宮雍仁親王がヴェッターホルン登攀(とうはん)、ユングフラウヨッホからアレッチ氷河横断からのベルナーアルプス最高峰登攀などの偉業を果たした。2016年8月にタレントのイモトアヤコさんがテレビ番組でアイガー山を東山稜ルートで登頂したのは記憶に新しいところ。日本人がスイスに魅力を感じるのはアルピニズムを通じた歴史的な交流も大きい。
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