スイス老舗観光スポットの集客が好調な理由:勢い増すユングフラウヨッホ(2/5 ページ)
スイスは山岳観光が昔から盛んだ。中でもユングフラウヨッホは100年超の歴史があり、多くの人々が訪れる観光名所となっている。特に近年は国外からの訪問者数を勢いよく伸ばしている。その背景を現地で探った。
標高3400メートルを35分で駆け登る鉄道
スイス山岳鉄道で最高峰と言えるのがユングフラウ鉄道だ。全線開通が1912年、クライネ・シャイデックからアイガー山とメンヒ山をトンネルで通過し、ユングフラウ山腹まで伸びる。終点のユングフラウヨッホ駅は標高3454m、富士山なら9合目付近に相当する。鉄道駅としてはヨーロッパで最高地点だ。駅はユングフラウヨッホという巨大観光スポットでもある。展望台からはヨーロッパ最長のアレッチ氷河や周辺の山々が展望できる。
ユングフラウヨッホ周辺はユネスコ世界遺産で景色が素晴らしいだけではなく、ビジネスとしても成功している。近年は訪問客数を着実に伸ばしており、全線開通100周年となる2012年には年間83万人、2015年には前年比16.3%増で年間100万人を超え過去最高を記録した。その数字をけん引するのは、日本を除くアジアからの観光客の伸びが大きい。中国のビザ緩和や、韓国やインドの好景気を背景に海外旅行客が増えていて、そこにユングフラウ鉄道だけではなくスイス政府観光局がこれらの国々をターゲットにしたプロモーションを展開したのが功を奏したようだ。
ユングフラウ鉄道の路線距離は9.3キロメートルとそう長くないものの、標高差は1393メートル。これまで片道約50分だったところ、新型車両導入により2016年12月からは片道35分と大幅短縮した。路線および終点にある施設は365日、年中無休。チケットは1日5000人を上限としており、夏期には売り切れになる日もある。ユングフラウヨッホに入場料はないため、ユングフラウヨッホ駅までのチケットには鉄道乗車券と観光スポット入場料がセットになっていると考えていいだろう。
ユングフラウヨッホにあるのは展望台だけではない。駅ビルとテーマパークを組み合わせたようなイメージだ。山の岩盤内をくり抜いて作られた施設には展望台のほか、レストラン、時計やチョコレートの土産物店、高地研究所、観光アトラクション、氷河内部を歩ける洞窟が広がり、外に出ると雪遊びができるパークや山小屋までの歩道がある。その広大さに驚かされる。
レストランは5店あり、窓から絶景を楽しみながら本格的な料理を楽しめる。繁忙期には1日あたり3000〜3500食、年間30万食ほど提供されている。土産物店にはリンツのテーマショップもあり、豪華な展示に加えてチョコレートをアウトレット価格で購入できる。平地同様にレストランや店舗が運営できるのは鉄道の輸送力が大きい。
施設内には日本の懐かしい赤ポストもある。日本の富士山五合目簡易郵便局と姉妹提携しているためだ。売店で絵はがきと切手を購入し、現地で投かんするのが日本人観光客には人気だ。日本へは4日程度で届く。試しに筆者がスイス時間で木曜午後に日本に向けてハガキを投かんしたところ、日本時間で月曜午後には「届きました」と報告を受けた。
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