スイス老舗観光スポットの集客が好調な理由:勢い増すユングフラウヨッホ(3/5 ページ)
スイスは山岳観光が昔から盛んだ。中でもユングフラウヨッホは100年超の歴史があり、多くの人々が訪れる観光名所となっている。特に近年は国外からの訪問者数を勢いよく伸ばしている。その背景を現地で探った。
高地ならではの施設運営
忘れてはいけないのがユングフラウヨッホの特殊な立地だ。展望台は駅よりもさらに高く標高3571メートルにあり、外気温の年間平均はマイナス7.9度、気圧はおよそ660ヘクトパスカルで平地の3分の2ほどしかない。ここで観光施設を安全かつ効率的に運営するために、あらゆる面で対策が施されている。
まず救急のための準備。高地ゆえに観光客が高山病にかかるなど体調を崩すことがある。登山することなく座ったまま短時間で空気の薄い場所にたどり着いてしまうのだから、身体にはそれなりの負担がかかると覚悟しておいたほうがいい。屋外のそり遊びなどで負傷をしてしまう人もまれにいる。熱帯からの若い訪問客だと初めて見る雪に感激し、思わぬケガをしてしまうこともあるそうだ。応急処置に必要なものはそろっており、緊急度が高ければヘリコプターで麓(ふもと)の病院まで運ぶ。
次に空調。施設内は最低でも18度を維持するように、暖房は照明や人間の体温など発生する熱源を効率良く活用できるようになっている。暖めるだけではない。施設は永久凍土や氷河の内部にあり、これらを熱で溶かさないように施設周辺の岩盤を人工的に冷やしている。
水の年間消費量は1300万リットル。以前はタンク車で運んでいたものの、2012年からはパイプラインでくみ上げられるようになった。施設の屋根に付着した氷雪は溶かして浄水するなど活用している。そのための浄水設備もある。
鉄道の運行と施設で使用する電力は基本的には麓の水力発電所から配給している。加えて下り列車3編成の回生ブレーキで発生する電力は1編成分の電力として補えるようになっている。日本のように電力会社から電力を購入するのではなく、鉄道会社が電力を自力でまかなっているのも興味深い。
技術に関連して、ユングフラウヨッホにある高地研究所も言及しておきたい。ユングフラウヨッホが持つ、観光スポットとは違う重要な側面だ。
当初、鉄道の建設許可をスイス連邦議会に申請するとき、高地研究所の併設も提案に入れていた。今でもこの研究所では高地アルプスにおける気象や大気の観測が行われており、ヨーロッパ大気汚染観測の重要拠点の1つだ。本棚には昔の記録ファイルが並び、最も古いものは背表紙に「1900/01-」と記されている。研究所には観測機器や実験器具ほか研究者のための宿泊施設もあり(観光客は宿泊できない)、管理人が交代で待機している。かつてここでは高山病研究や天文観測も行われていた。もう使われていないものの天文観測のための望遠鏡も残っている。
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