スイス老舗観光スポットの集客が好調な理由:勢い増すユングフラウヨッホ(4/5 ページ)
スイスは山岳観光が昔から盛んだ。中でもユングフラウヨッホは100年超の歴史があり、多くの人々が訪れる観光名所となっている。特に近年は国外からの訪問者数を勢いよく伸ばしている。その背景を現地で探った。
外国人観光客が伸びているわけ
先述したようにユングフラウヨッホは近年訪問者数を伸ばしている。訪問者はスイス国外からの観光客が際だって多く、9割を占める。今では3分の2がアジアからの観光客だ。日本人は1割弱ほど。スイスフラン高・円安、テロ事件、個人型旅行へのシフトなどの理由により日本人観光客数は近年縮小しているものの、グループ旅行だけで年間8万人ほどはいる。近年では日本人観光客が減っている以上に中国、韓国、インドからの観光客が伸びている。筆者も若い世代のアジア人を多く見掛けた。
海外からの観光客を増やすための施策をユングフラウ鉄道グループのウルス・ケスラーCEOにたずねた。同氏は30年前から同社で日本をはじめアジアを中心に顧客を開拓してきた人物だ。
ケスラーCEOはまず「多言語で情報を提供すること」を挙げた。基本ではあるが、観光客が迷わないようにそれぞれの言語で道や施設をきちんと分かりやすく案内することは重要だ。具体的な例としてユングフラウ鉄道乗車記念パスポートがある。各言語でユングフラウヨッホ観光に必要な情報がA6サイズでコンパクトにまとめられており、観光中はとても役に立つ。最後のページにはスタンプ欄もあり、自分だけの特別な旅の記念品となる。
ささいなことではあるが、同鉄道では下りの車内改札時に各人に小さなチョコレートを配る。慣れない高地滞在で身体は疲れているはずなので、チョコ好きかどうかに関係なく疲労回復に効果がありそうだ。スイス流の「おもてなし」なのかもしれない。
ユングフラウ鉄道グループは顧客増加のためのアピールも積極的だ。年に1度は各国のプレスを招き、ユングフラウヨッホで盛大にスポーツイベントを共催している。高地の雪上だというのに、テニスや陸上競技などの特別会場を設営してしまうのだ。2016年はNBAのトニー・パーカー選手を招いてバスケの親善試合をした。パーカー選手は「空気薄い」と正直にぼやきながらも、いくつかのシュートを披露した。
近年では年末にクリスマスムードを盛り上げることにも力を入れている。屋外広場には巨大なクリスマスツリーを飾り、夜間にはライトアップもする。理由としては冬は閑散期なので集客強化のためであり、遠方からの観光客へのアピールが大きい。これまでスイスは素朴な自然を強みとしており、観光客は近隣ヨーロッパ諸国からが多かったため、あえてクリスマスムードをアピールする必要はなかった。しかし近年ではアジアはじめ欧米以外の観光客が増えているため、ヨーロッパらしい雰囲気を高めようとしている。
意外な集客施策としては、2016年9月の「iPhone」新機種販売キャンペーンがある。iPhone 7の発売日にスイスの大手家電販売店Interdiscountがユングフラウヨッホにて1日限定のiPhoneストアを開店し、iPhone 7を400台限定で販売した(当日中に完売)。iPhoneは定価だが、ユングフラウヨッホへの特別割引乗車券が発売されたほか、iPhoneのアクセサリーも割引価格で販売された。このiPhoneはSIMフリー版なのでキャリア契約は別途必要になる。スイス国内在住者はもとより、海外からの観光客も購入できる。日本なら、高尾山や箱根でケーブルカー特別運賃が発売されるとともに、ビックカメラやヨドバシカメラがiPhoneを特別販売するようなイメージだ。
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