日本のお笑い芸人が世界に比べて「終わっている」は本当か:世界を読み解くニュース・サロン(2/4 ページ)
脳科学者の茂木健一郎氏が、「日本のお笑いはつまらない」とツイートして話題になった。一方、米国のトークショーは社会問題などを取り上げていることが多いが、ネタはコメディアンがつくっているのか。米国のテレビ局で働いた経験がある筆者によると……。
米国のお笑いシーンとはどんなものか
まず米国のお笑いシーンとはどんなものか。基本的に、米国のお笑い“芸人”は、観客の前でお笑いトークを繰り広げる、「スタンドアップ」と呼ばれるスタイルが基本になっている。舞台は、劇場やコメディクラブ、バーやナイトクラブなどで、コメディアンが1人で観客を前に漫談のような「しゃべり」を繰り広げる。イメージとしては、マイクを持って歩きながら話す綾小路きみまろ氏のスタイルに近い。
そうした舞台で人気を博し、名前が売れるようになると、コメディアンはさらに知名度を上げるためにテレビに進出する。そこで開かれる道は、トークショーや、人気コメディ番組SNL(サタデーナイト・ライブ)などのコント番組、ドラマ仕立てのコメディ番組であるシットコムなどだ。作家としてテレビに入っていくケースも多い。そこでさらに成功を収めると、ハリウッド映画などに声がかかるようになり、一気に世界的なセレブに仲間入りする。
ロビン・ウィリアムズやジム・ケリー、エディ・マーフィーやクリス・ロックなど米国の有名コメディアンはほぼスタンドアップの出身だと言っていい。
テレビでは、平日に毎晩、地上波の全国ネットワーク局(ABC、CBS、NBC)がそれぞれコメディ要素満載のトークショーを放送する。また米国ではケーブルテレビが日本以上に普及しており、「コメディ・セントラル」といったコメディ専門チャンネルが人気だ。
茂木氏がTwitterなどでアップしている動画は、コメディ・セントラルのトークショーである「ザ・デイリーショー」や、地上波の夜のトークショーである「ザ・レイトショー」「レイトナイト」などである。こうした番組は、茂木氏のツイートのように、政治的なツッコミ満載で、放送後はニュースサイトや新聞のサイトなどでニュースになることが少なくない。日本でもテレビでの内容がすぐにスポーツ紙で記事になるが、それに近い。
そしてトークショーで司会をするコメディアンたちも元々はスタンドアップ出身だったりする。特に茂木氏がよくTwitterで取り上げているコメディ・セントラルの「ザ・デイリーショー」で司会を務めるトレバー・ノアも、もともと俳優などを経てスタンドアップをやっていた。
ノアはアパルトヘイト下の南アフリカで生まれた白人と黒人のハーフであり、それをスタンドアップの舞台でもウリにして笑いにしている。彼のアイデンティティを最大限に笑い飛ばしているのである。日本で言えば、女芸人が自分の容姿をネタにしているのに近い。ノアのスタンドアップはかなり面白いので、機会があれば一度ぜひ見てもらいたい(YouTubeでは英語の字幕も出るので理解しやすいはずだ)。
ただノアのスタンドアップの内容はタブーでもなければ、権力に抵抗するといったものでもなく、政治的な話でもない。社会的に話題になったニュースを揶揄(やゆ)するようなことはあっても、「権力者への批評」はない。
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