日本のお笑い芸人が世界に比べて「終わっている」は本当か:世界を読み解くニュース・サロン(3/4 ページ)
脳科学者の茂木健一郎氏が、「日本のお笑いはつまらない」とツイートして話題になった。一方、米国のトークショーは社会問題などを取り上げていることが多いが、ネタはコメディアンがつくっているのか。米国のテレビ局で働いた経験がある筆者によると……。
トランプ大統領に「徹底抗戦」していない
そんなノアは、2015年3月に人気番組だった「ザ・デイリーショー」の司会に抜てきされてから、政治家や政治問題などに切り込むようになる。これは彼のもともとのスタイルではないが、この番組を担当する以上、避けられない。というのも、この番組はそもそも毎日のニュースを題材に「政治風刺」などをする番組だからだ。ちなみに、この30分の番組はノアを含む19人もの作家らの手によって原稿がまとめられている。ノアの一存で、しゃべることがすべて決められるわけではなく、作家たちが持ち寄るテーマやジョーク、コメントなどで固められていく。
つまり、米国のトークショーが「権力者に批評」するような笑いを提供できているのは、コメディアンの資質や能力ではなく、作家など番組制作者の努力が大きいのである。極端に言えば、「国際水準」として評価すべきはコメディアンではなく、コメディアンや多くの作家が作り上げる番組なのである。
別の例を出すと、2014年からネットワーク局であるNBCで「レイトナイト」をホストするセス・マイヤーズは、スタンドアップで政治家をネタにするのが好きだが、決して「権力者に批評」といった類の話ではない。個性ある政治家のキャラクターを小馬鹿にしながらイジっているだけで、どちらかと言えば下品な笑いだ。
ただ彼も「レイトナイト」では、政治系の話を取り上げることも多い。政治関係のゲストを迎えることもあり、そういう場合には非常に穏やかに政治について質問をしている。報道ではないので、結局は茶化しながら核心に触れずに終わるのだが、そこでゲストに投げる質問も作家らが提案していることが多いという。「権力者に批評」には到底及ばない。
さらに茂木氏は、米NBCのコント番組SNLで「コメディアンたちが徹底抗戦」しているとツイートしている。だがこれについても、コメディアンが自分たちの政治的な立場を表明しているわけではないし、33人(2016〜17年の第42シーズン)の作家たちと一緒に何が面白いのかを毎週大真面目に検討して表現しているだけだ。政治的な意図やメッセージがコントの前提となることはない。
結局のところ、トークショーやコメディ番組は笑いになるからトランプ陣営の人々(ショーン・スパイサー報道官や、ケリーアン・コンウェイ大統領顧問)を取り上げて、バカにしているだけに過ぎない。とにかくSNLがトランプ大統領に「徹底抗戦」しているなんてことはない。
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