日本社会の「効率化」が結局、「人のがんばり」に落ち着く理由:スピン経済の歩き方(1/5 ページ)
「欧米に比べて、日本企業の生産性は低い」といった話をよく聞くようになった。効率化を図っている企業は多いのに、なぜ生産性は上がらないのか。その背景に、結局のところ「人のがんばり」に頼っている部分があるからではないだろうか。
スピン経済の歩き方:
日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。
「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。
そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」に迫っていきたい。
先日、仕事の関係で「簡易書留」を送ることになった。
近くの郵便局へ行って窓口に2通の書留をお願いしたところ、封筒の宛名をハンディスキャナで読み取ってすぐにレシートのようなものを出してくれた。書留を出したことを証明する「書留・特定記録郵便物等受領証」である。
窓口に着いてから受領証をいただくまでわずか数十秒。昔はこういうのはすべて差出人が手書きで書かされていたことを考えると、窓口業務というのはITで飛躍的に効率化しているんだな、とえらく感銘を受けた。
ただ、それから数日してそことは違う郵便局で簡易書留5通をお願いしたとき、その認識が誤っていたことに気付かされる。窓口担当の女性がごく当たり前のように、複写式の「書留・特定記録郵便物等受領証」を差し出して、「そこの台でこちらに記入をしてください」とおっしゃってきたのだ。
なんだか釈然としないものの、窓口の方がおっしゃっているのだからそういうことなのだろう、と5件の宛名を受領書にすべて手書きで記入をして再び列に並んで提出をした。すると、今度は女性は机に封筒を並べて、それぞれの宛名と受領書に記された宛名を照合し始めた。丁寧なお仕事をされる方のようで、「あ、えーと、これはこれか」なんてブツブツ言いながらやっていた。最初に窓口に着いてからゆうに3分は経過している。
ほんの数日前の光景とのあまりの落差から失礼だと思いつつも、「あの……先日ほかの郵便局で出したらピッというので終わったんですけど」と疑問を口にしたところ、窓口女性は諭すような口調で答えてくれた。
「そういう方法をとることもあるんですが、書留の数が多い場合は印字スペースの関係で受領書がかなり長くなってしまうんです。だから、こちらの用紙にご自身で書いてもらうということで、窓口業務の時間短縮にご協力いただいているんですよ」
これは正直、目からウロコだった。
いま盛んに論じられている宅配業界の「効率化」にも関わる日本社会の構造的な問題が窓口女性の言葉にすべて集約されていたからだ。
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