日本社会の「効率化」が結局、「人のがんばり」に落ち着く理由:スピン経済の歩き方(5/5 ページ)
「欧米に比べて、日本企業の生産性は低い」といった話をよく聞くようになった。効率化を図っている企業は多いのに、なぜ生産性は上がらないのか。その背景に、結局のところ「人のがんばり」に頼っている部分があるからではないだろうか。
「人のがんばり」に依存した成長を止めにしないか
かつて日本の航空技術は世界一と言われた。その結晶である零戦は他国の戦闘機の中で、別格の戦闘能力をもっていた。
しかし、この画期的な技術をもってして、効率良く戦うということはできなかった。軍が戦局の悪化という「変化」に対応できず、これまでの「常識」や「ルール」に固執するあまり、効率化が機能せず「人のがんばり」で解決をするという最悪の戦い方に突入していく。その象徴が零戦に片道分の燃料しか入れずに敵に突っ込む「神風特攻」だ。
日本人は真面目な性格なので、周りから「がんばれ」と言われると、一生懸命がんばる。できないと、まだ甘えているからだと自分を責める。そして、がんばった人は周囲にも自分と同じような「がんばり」を期待する。これが強要になると、パワハラへとなっていく。
「がんばり」を否定しているわけではない。ただ、世の中にはそれだけでは解決できないものがあるのだ。
それを解決するために新しい技術がある。それに機能させるためには、それに見合った新しい考え方やルールを受け入れる必要があるのだが、日本人はこのあたりがあまり得意ではない。
じゃあ、具体的にどんなも新しい考え方なのだ、と思うかもしれないが、部外者がああだこうだと言う前に、そこはさすがに当事者のみなさんたちはもう気付いている。
例えば、ヤマト運輸は佐川急便、日本郵便と首都圏の高層ビルなどで荷物を1社に集約して配る連携策を強化する方針を明らかにしている。いずれは、高層マンションや一戸建てに広げていくという。
同じ空間を、さまざまな宅配便のドライバーたちが台車を押してかけ回っているというのは、「昭和の宅配便」からすれば、健全な競争だが、人口が減ってネット通販がこれだけ普及した時代になると、利用者にとってもドライバーにとっても効率の悪いこと極まりない。宅配ドライバーのみなさんが大切な社会インフラだとすれば、その限りある資源をみんなで守りつつ、業界として取扱量を増やしていくとなると、おのずとこういう考え方になっていくのだろう。
つまり、ドローンだ、宅配ボックスだ、というさまざまな取り組みを機能させるためには、まずは「ヤマトの荷物を佐川のドライバーが運んでもいい」という新しい考え方を受け入れる必要があるのだ。
もうそろそろ「人のがんばり」に依存した成長を止めにしないか。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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