伊豆戦争が再び? 東急VS.西武の争いはそれほど悪くない:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
東急グループの伊豆急行で新たな観光列車が誕生する。かつて伊豆や下田などをめぐって、東急グループと西武グループが争っていたが、今度の戦いはちょっと様子が違う。両社の沿線の人々にとって楽しみが増えて、両社の沿線の価値を上げる効果が大きい。
伊豆戦争から協調へ「S-TRAIN」の役割が大きい
そんな歴史を知ると、西武鉄道が「旅するレストラン 52席の至福」を運行後、東急グループが「THE ROYAL EXPRESS」を繰り出したことは、西武VS.東武の新たな観光列車競争に見える。伊豆方面だけを見ると、運行区間が似通った「IZU CRAILE」と「THE ROYAL EXPRESS」の競争に見えるけれども、両者はターゲットが違う。この2つは東急電鉄、伊豆急行、JR東日本が結託した“オールレンジで伊豆を盛り上げる作戦”のタッグチームだ。
だから伊豆VS.秩父の競争という見方がおもしろい。西武鉄道の「旅するレストラン 52席の至福」は運行から1年経って、報道陣へ向けた招待旅行を実施するなどプロモーションに力を入れている。「どうも伊豆が盛り上がりそうだ。秩父を忘れて貰っては困る」……そんな思惑が漂う。
「旅するレストラン 52席の至福」は4両編成で、そのうち客室は2両。座席はすべて大きなテーブルを備えたダイニングルーム。1両まるごと厨房として使い料理人が腕を振るう。残り1両は多目的広場になっている。ブランチコースの料理はミシュラン1つ星を獲得した代々木公園のイタリアン「Ostu」の宮根正人氏が監修、ディナーコースは高級フランスレストラン「ラ・ロシェル 南青山」から、フレンチの鉄人こと坂井宏行氏が監修する。
しかし、今回の東急グループと西武グループの対決は、「おもしろい」と評価していいほど平和的で、両者にも、両者の沿線の利用者にもメリットが多い。そのおもしろさの要になる列車が「S-TRAIN」になる。
休日に西武鉄道の秩父方面と東急電鉄の横浜方面を結ぶ「S-TRAIN」は、東急電鉄として初の座席指定列車となる。東急沿線から秩父という有名観光地に乗り換えなしで行けるので、沿線に有名観光地を持たない東急電鉄が、ついに、沿線住民に対して観光地直通列車を提供できた。これは沿線価値の向上にとって大きな意味がある。
一方の西武鉄道にとってはどうか。「S-TRAIN」によって、横浜・中華街というお出かけスポットを沿線住民に提供でき、これからは横浜経由で伊豆への旅も提供できそうである。そのためには「S-TRAIN」と「THE ROYAL EXPRESS」が横浜駅で乗り換え可能になるか否かがカギになる。かなり長時間の乗車になるけれど、これは実現してほしい。
東京近郊の宿泊型観光地としては箱根、日光などもある。箱根に関しては小田急電鉄が2018年3月に新型特急ロマンスカー「70000形」を投入予定。日光は東武鉄道が2017年4月から新型特急リバティ「500系」を投入し、8月からはSL「大樹」も運行する。各地とも観光需要に対する設備投資に積極的だ。
それぞれに事情はあれど、インバウンド需要の喚起や東京オリンピックがきっかけのひとつかもしれない。鉄道各社が観光に力を入れて旅行客を奪い合う。私たち鉄道ファン、旅行ファンとしては、こんな競争なら大歓迎だ。
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