ジャーナリストの執拗な質問に、なぜ大臣は“切れて”しまったのか:スピン経済の歩き方(5/5 ページ)
フリージャーナリストの執拗な質問を受け、今村復興大臣の堪忍袋の緒が切れてしまった。ジャーナリストの追及に賞賛する声がある一方で、否定的な見方をする人も多い。筆者の窪田氏の意見は……。
「会見はスピンルーム」という認識をもつべき
このような事態を避けるために、メディアトレーニングという模擬記者会見トレーニングがある。これは言ってしまえば、今回のフリージャーナリスト氏のような執拗な追及をどうかわすのかという訓練だ。筆者もトレーナーとしてかかわることが多いのだが、そこで「失言」を連発する人を見るとやはり「喋りに自信のある人」「頭の回転が早くポンポンと気のきいた言葉が出る人」なのだ。もっと言ってしまうと、自分と考えの異なる記者やジャーナリストを「論破」できると過信をしてらっしゃる方が多い。
米国ではホワイトハウスの会見場を「スピンルーム」と呼ぶ。政府の正当性を伝えたい側の情報操作(スピンコントロール)と、そのシナリオを見抜くジャーナリストたちが互いの言葉をぶつけ合わせる「頭脳戦」の場なのだ。
しかし、日本の記者会見はそういう認識ではない。役所であっても、企業でもあっても、情報を出す側が情報操作などするわけがないという前提にたっている。ジャーナリストは裁判官のように「中立公平」をうたう立派な人なので、相手を怒らせて誘導尋問なんてセコいことはしないと思われている。
そういう性善説的な考えが根強いので、今回のように「ジャーナリストは悪くない」「いや、ハメられた大臣が気の毒だ」なんて不毛な論争が起こる。
日本では、記者会見というのは、中立公平なジャーナリストと、嘘偽りのない政府が、本音をさらし出し合う「誠実な場」だと思われがちだが、そんなことはない。
日本でも、「会見はスピンルーム」という認識をもつべきではないのか。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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