自動運転よりも“無人運転”が注目される理由:各社、実用化に向けて実験加速(2/3 ページ)
「無人運転車」と「自動運転車」は、それぞれ目指すゴールが違う。自動運転は個人が買って乗ることを前提としているが、無人運転には社会インフラを支える大きな役割が期待されている。
自動運転と無人運転は目指すゴールが違う
「官民ITS構想・ロードマップ2016」によると、政府は2020年までに準自動パイロットとともに、地域限定で無人自動走行移動サービスを市場化したいとしている。ここでも自動運転と無人運転を分けて示している。
これに合わせて国土交通省は2017年2月、道路運送車両の保安基準などを改正した。この中では、ハンドルやアクセル、ブレーキペダルなどを備えない車両でも、速度制限、走行ルートの限定、緊急停止ボタンの設置といった安全確保を条件に、公道の走行が可能となった。無人運転の環境整備は着々と進んでいるのである。
無人運転の起源は、EU(欧州連合)が研究開発資金の一部を援助することで2006年から10年間進められたプログラム「CityMobil」にあると考えている。第2ステップとなる「CityMobil2」では欧州内の45団体が参加し、7つの都市で実証実験が行われ、延べ3.5万キロメートルを走破、6万人以上を運んだ。
このプログラムのために開発されたのが、前に紹介したEasyMile社のEZ10とNavya社のARMAである。2台はプロジェクトが終わる2016年から、独自に世界各地に進出していった。欧州のみならず北米や豪州でも実証実験を行っており、アジアでは日本以外にシンガポールでも走っている。無人運転の分野は当面、この2台が主役となっていると言って良い。
少し前まで、多くの人はこれらを自動運転車の一種として見なしていた。筆者は自動車メーカーが開発する車両とIT企業や研究機関が開発する車両では方向性が違うので、前者を「ハイウェイ型」、後者を「シティ型」と呼び分けていたが、やはり自動運転車と総称していた。
しかし自動車メーカーの自動運転車が、運転席に人間が乗っていることを前提とするのに対し、EZ10などの無人運転車は国土交通省の保安基準にある通り、ハンドルやアクセル、ブレーキペダルなどがなく、“無人”でも走る。前者がレベル1、2、3とステップを踏んで進化していくのに対し、後者は最初からレベル4を狙い、それを可能な場所で走らせる。ロボットに似た考え方だ。
これだけ違う乗り物を自動運転と一括するのは無理がある。それを考えると、無人運転という言葉を使って両者を区分するようになったのは多くの人にとって理解しやすく、歓迎すべき動きだと思っている。
自動運転と無人運転は、敵対関係にあるものではない。そもそも両者は普及のプロセスや活躍の舞台が違う。自動車メーカーが手掛ける自動運転車は、個人が買って乗ることを前提としているのに対し、無人運転車はバスやタクシーなどの公共交通やトラックなどの物流として走らせることを念頭に置いているからである。EZ10を筆頭に箱型車体が多いのはそのためだ。
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