東芝問題で「日の丸レスキュー」構想が出てきたワケ:スピン経済の歩き方(2/5 ページ)
揺れに揺れている東芝問題は、今後どうなるのか。終息する気配がうかがえない中で、やっぱりこのタイミングで出てきた。日本のお家芸といってもいい「日の丸連合」のことである。さて、この日の丸連合……うまくいくのだろうか。
官僚の「仕掛け」に惑わされてはいけない
なんてことを言うと、「スゴ〜イデスネ!!視察団」的世界観をお持ちの方たちから「日本の世界に誇る半導体技術を中韓に流れるのを守ってくれるっていうのに、揚げ足とるようなことを言うんじゃねーよ」という怒りの声が飛んできそうだが、日本の技術を守りたいのであればなおさら、このような官僚の「仕掛け」に惑わされてはいけない。
これまで半導体の世界で経産省が「日の丸連合」という言葉を持ち出して音頭をとると、技術を守るどころかむしろ技術流出を招いている、という皮肉な結果に陥っているからだ。
例えば、経産省が「日の丸半導体を救え」と旗を振って、日本政策投資銀行が300億円の公金を出資したエルピーダメモリは3年後に破たんして、結局のところ米企業マイクロン・テクノロジー社に買収され、いまや完全子会社となっている。ちなみに、エルピーダの社長は2016年3月、日本の半導体技術を中国へ売る半導体設計会社を設立している。
同じく、「日の丸連合」を掲げて産業革新機構とトヨタ自動車や日産自動車などの官民連合が1500億円を出資して救済にまわったルネサスも、2015年に黒字化して経営再建を果たしつつあるという印象を抱くかもしれないが、これは工場の半数を閉鎖したことと2万人にものぼるリストラの成果に過ぎない。ルネサスを去った大量の半導体技術者たちが、どこへ向かったのかは推して知るべしであって、決して「技術が守られた」わけではないのだ。
経産省が救済を呼びかければ呼びかけるほど競争力が落ちていくというのは、「半導体ビジネス」の特性によるところが大きい。半導体は毎年のように数千億の巨額投資が必要ということからも分かるように、競合の動きに対応して、捨てるべきところは捨てる、獲るべきところは死に物狂いで奪いにいくという「選択と集中」が求められる。また、今回の東芝半導体事業に入札した面々を見ても分かるるようにスピーディーな経営判断が生死を分ける。
「日の丸」の旗の下でさまざまな企業が官僚の顔色をうかがいながら「ほほう、そうきましたか」なんて駆け引きをする護送船団方式で到底太刀打ちできる世界ではないのだ。
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