岩谷のカセットコンロが今も売れ続ける理由:ロングセラー商品(4/4 ページ)
今では当たり前のように家庭で使われているカセットコンロを、業界で初めて発売したのが岩谷産業だ。もう半世紀近く前に誕生した商品だが、いまだに年間約70万台売れているという。そのワケとは……。
アウトドア専用や焼き肉専用の商品まで
このように、他社に先駆けて技術的な基盤を固めた岩谷産業だったが、さらにユーザーからの要望が出ていた。それは屋外でカセットコンロを使うと、風などの影響を受けて火が弱まり、使い物にならないという。90年代半ばの当時はアウトドアブーム。RV車なども登場して、人々はこぞってキャンプなどに出掛けた。そこでカセットコンロを使いたいという需要があったのだ。
ユーザーの声を受けた岩谷産業は屋外で使える、特に風に強いカセットコンロの開発に乗り出す。完成したのは「カセットフー 風まる」だ。この特徴は風を防ぐために二重構造になっている一方で、火を付けるために必要な空気が入る穴を設けている点である。また、火力は3000kcal/hと、一般的な家庭用ガスコンロと同じ強さに仕上げた。
この商品を契機に、岩谷産業はユーザーのニーズに応えるような商品ラインアップを拡充していく。それが可能になったのは、何と言ってもカセットコンロに関する基礎技術を確立していて、他社がまねしようとしても難しかったからだ。その後、カセットコンロ自体を小型化した一人向け商品や、たこ焼き専用コンロ「スーパー炎たこ」、炉端焼き用コンロ「炙りや」などを相次いで発売した。
その中で2016年に発売した焼き肉専用コンロ「焼まる」は大ヒットとなった。従来、家庭で焼肉をやる際にはホットプレートを使うのが一般的だったが、どうしても煙の問題があった。これを改善しようとしたのがこの商品だ。
鉄板の表面温度を通常のものよりも下げる一方で、鉄板の回りに水を入れた溝を設け、焼肉の油がスムーズに流れるようにデザインを改良した。これは逆転の発想で、今までなら火力を強め、どんどん鉄板温度を上げていったのだが、あえて温度を下げる方法を取った。ただし、あまり下げてしまうと今度は肉が焼けないので、最適な温度を繰り返し実験したという。「豚トロを何枚食べたか分からない」と同商品の開発に携わった福士氏は振り返り笑う。
なぜ岩谷産業はここまでユーザーのニーズを細部にわたるまで汲み取り、商品開発につなげられるのか。その秘けつは、コンタクトセンターと商品開発部門が同じセクションにあり、顧客の声がすぐさま商品開発担当者に伝わる仕組みがあるからだ。消費者との距離が近く、現場感を持って商品開発できるのも岩谷産業の強みである。
カセットコンロ業界の先頭をひた走る岩谷産業。今後も「こんなアイテムがほしかった!」と消費者を唸らせるようなアイデアを期待したい。
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