ぺんてるのサインペン “書きやすさ”の理由:ロングセラー商品(1/3 ページ)
昔から変わらず使われ続けているサインペン。世界で初めて開発したのが、文具メーカーの「ぺんてる」だ。シンプルでありながら、ロングセラー商品に育てることができた理由はなんだろうか。
ロングセラー特集:
生まれては消えて、消えては生まれる――。スーパーやコンビニの棚を見ていると、慌ただしく商品が入れ替わっている中で、何十年も消費者から愛され続けているモノがある。その歴史を振り返ると、共通していることがあった。それは「業界初」というリスクを抱えながらも、世に商品を送り出したことだ。何もないところから、どのようにして市場をつくってきたのか。また、競合商品が登場する中で、なぜ生き残ることができたのか。その秘密に迫る。
サインペンといえば、長めのキャップがついた、黒や赤のシンプルなペンを思い浮べる人が多いだろう。最初に開発したのは、文具メーカーの「ぺんてる」。54年前に世界で初めて商品化した。固有の商品名だったサインペンが、今では一般名詞化するほどに定着している。定番商品として使われ続ける理由について、同社のマーケティング担当者に聞いた。
研究開発に8年
ぺんてる(当時は大日本文具)が1963年に発売したサインペン。これまでに100カ国以上で、累計21億本以上を販売してきた。つなげて並べると、地球7周分以上にもなる。現在も安定した販売を続けており、1年間に国内で1000万本、海外で500万本が売れている。そんなロングセラー商品も、ヒットまでの道のりは険しかった。
同社は墨や筆の卸問屋から始まり、クレヨンや絵の具、シャープペンシルなど文具の開発に事業を広げた。「新しいものを生み出す」という会社の方針に沿ってペンの開発にも着手。60年に油性ペン「ぺんてるペン」を開発した。当時の主流だった太い油性マーカーでは大きな文字しか書けなかった。そのため、細い線も書けるように、ペン先の材料をフェルトからアクリル繊維に変え、新しい油性ペンとして世に出した。
ぺんてるペンは、現在も販売するヒット商品となったが、用途によっては不便な点も多かった。はがきなどに文字を書くと、インクがにじんで文字が潰れてしまう。また、裏写りしやすく、はがきの両面に書けない。そんな問題を解消するために、水性サインペンの開発がスタートした。
サインペンの内部にはインクを染み込ませた中綿が入っている。中綿に染み込んだインクが少しずつ送り出され、ペン先に染み出すことで書けるようになる。水性ペンの場合、着色剤を水に溶かしてインクを作るが、中綿を使った構造のペンを水性のインクで作ろうとすると、インク漏れを起こしやすくなる。水は、油性ペンに使われる溶剤と比べて粘度が落ちるからだ。適量のインクを吐出できる中綿とペン先を開発することが大きな課題だった。
インクがペン先に流れる量を決める要素の1つが、中綿の繊維の固め方だ。中綿が柔らかいとインクが漏れてしまうが、硬すぎるとインクがペン先まで流れてこない。綿を棒状に固めるのに使うのりの量を何度も調節した。他にも、軸内の空気が膨張することで発生するインク漏れを防ぐため、ペン先付近に小さな穴を開けるなど、試行錯誤を繰り返した。8年にわたる研究期間を経て、63年にサインペンを完成させた。
発売当初、サインペン本体の色は、流行色のベージュだった。先端にはめ込む尾栓(びせん)を黒色にすることで、インクの色が分かるようにしていた。しかし、ある製薬会社から、「本体をインクと同じ黒色にしてほしい」という要望で、2万本の特注を受けた。それがきっかけで、本体色を黒に変更。余ってしまったベージュの樹脂を尾栓に使った。それが定着し、今でもサインペンの尾栓はベージュに統一されている。
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