「無人コンビニ」の普及がもたらす経済的インパクト:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
米Amazon.comが3月にオープンする予定だった無人コンビニ「Amazon Go」のプロジェクトが遅延している。無人コンビニは技術的難易度が高く、トラブルが多発することは容易に想像できるが、本格的に普及した場合の影響は大きい。無人コンビニは社会や経済に対してどのような影響を与える可能性があるのか。
無人コンビニ普及による経済インパクト
セブン-イレブン、ローソン、ファミリーマートの上位3社における店舗数の合計は、約5万店舗である。無人コンビニが従来の有人コンビニと同様のサービスを提供できるとは思えないが、一方で顧客ごとにカスタマイズした商品構成や、リコメンデーションシステム(お勧め機能)の導入によって単価をアップする効果も期待できる。
コンビニ1店舗当たりの売上高が変わらないと仮定した場合、無人化によって年間で1兆2500億円もの人件費が削減される可能性が見えてくる。システムにかかる経費は人件費と比較するとかなり小さいので、場合によっては1兆円レベルの利益がコンビニ業界にもたらされるかもしれない。
これに加えて労働市場での大きな人材シフトも予想される。コンビニで働く店員の数は、アルバイトのシフトなども考慮に入れると100万人規模に達する可能性がある。無人コンビニの普及によって彼らの仕事の多くは消滅してしまうが、日本の場合、失業よりも労働力のシフトが大きな社会問題となるだろう。
今後の日本では人口減少が本格化し、生産年齢人口は今後25年間で1750万人も少なくなってしまう。いくらロボット化やAI化が進んだとしても、人に頼らなければならない仕事は一定数存在するため、コンビニの無人化で余った労働力は、人手を必要とする業界シフトさせる必要が出てくる。
コンビニという一つの業界で無人化が進んだだけで、1兆円のお金が動き、労働市場において100万人を転職させなければならない。これはマクロ経済的に見ても、大きなインパクトをもたらすことになるだろう。無人コンビニの影響を過小評価してはいけないと筆者が主張しているのはこうした事情があるからだ。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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