なぜセブンは海外のコンビニを買うのか:“いま”が分かるビジネス塾(1/3 ページ)
セブン-イレブンがこれまで聖域としてきたFC加盟店のロイヤリティ引き下げに踏み切った。同じタイミングで過去最大規模となる海外のコンビニのM&A(合併・買収)実施についても明らかにしている。飽和市場で苦しくなると言われながらも、何とか成長を維持してきたコンビニ業界だが、一連の決定は成長神話もいよいよ限界に達しつつあることを如実に表している。
コンビニ大手のセブン-イレブン・ジャパン(以下、セブン)は4月6日、加盟店から徴収するロイヤリティを1%減額すると発表した。同社がロイヤリティを一律引き下げるのは初めてのことである(加盟店から徴収するロイヤリティについては前回の記事を参照)。本部にとって加盟店から徴収するロイヤリティは利益の源泉であり、この部分については手をつけてはならない「聖域」とされてきた。
同社は長年、鈴木敏文前会長によるワンマン経営が続いてきたが、鈴木氏はセブンの収益低下につながるロイヤリティの減額については、かたくなに首を縦に振らなかったという。鈴木氏が退任したことで、ようやくその呪縛から開放されたわけだが、現経営陣にとってもロイヤリティの維持が極めて重要であることは痛いほどよく分かっている。それにもかかわらずロイヤリティの減額に手を付けたのは、加盟店の経営状況が目に見えて苦しくなってきたからである。
1%の引き下げで年間100億円以上の利益が吹き飛ぶ
セブンは全国で約1万9000店舗を展開しているが、直営店は約500店舗にすぎない。残りは全て独立したオーナーが存在するFC加盟店である。セブン本体の売上高は、直営店の売上収入と加盟店からのロイヤリティ収入の2つで構成されている。つまり、全体の店舗数や売上高に変化がなくても、ロイヤリティの金額を引き上げれば本部の売上高や利益は拡大し、逆にこれを引き下げると業績は悪化することになる。
2016年2月期におけるセブンの全店売上高は4兆2910億円だった。ここから直営店の売上高を差し引いた加盟店の全店売上高(推定)は4兆1700億円となる。商品の平均的な原価は約70%なので全店では約1兆2500億円の粗利益を得ている計算になる。
加盟店から徴収するロイヤリティは、オーナーの資金負担によって変わってくるが、平均すると約50〜55%%程度と考えられる(詳細は前回コラム参照)。仮に55%と仮定すると1兆2500億円の55%なので6875億円ということになる。これが1%減額されるので約138億円分の収益がなくなる計算だ。
同社では1%のロイヤリティ引き下げによって下期だけで80億円減収するとしており、単純計算すると通期では160億円の減収である。ぴったりではないが、この推定はおおよそ合っていると考えてよい。
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