カウンセラーが教えるアドラー流“捉え方術”:6月病特集(3/4 ページ)
管理職向けにアドラー心理学を応用した教育研修を行うカウンセラーの岩井俊憲さんに、ストレスをかわす“捉え方術”を聞いた。
現状を受け入れると状況は良くなる
――現状の実力を認めることで、行動はどのように変わるのでしょうか。
岩井: 自己啓発本『そうか、君は課長になったのか。』(2010年発売)などの著者で有名な元東レの取締役、佐々木常夫氏の話を例に挙げましょう。
佐々木氏はもともと企画や管理部門などの部署にいましたが、42歳のときにこれまでの全く経験のなかった営業部の責任者になりました。
責任者になった佐々木氏は、営業成績が優秀だった年下の部下に頭を下げ、営業に関するレクチャーを受けたり、自分の仕事(進め方)の対するフィードバックを自らお願いしたそうです。「営業に関しては自分は無知」という自分の現状を素直に認めていたからこそ、部下からのレクチャーだったり、フィードバックをもらう行動が取れたのです。結果、佐々木氏は営業部の業績をこれまでに以上に伸ばすことができ、優秀なリーダーへと成長していきました。
逆に、自分は知らない、できないと思われたくないと意地を張る人は、周囲とのコミュニケーションがうまくいかず、1人で悩みを抱え込み、孤立することにもつながります。当然、精神的な負担も大きくなる。
前述した「ありのままの現状をきちんと受け入れる(認める)」ことが、このフィードバックを受けるという姿勢に変わっていき、精神的な負担を軽減させるだけでなく、状況を好転させていくのです。
――管理職という立場であっても、メンタル不全に陥る要因の多くは「人間関係に関する悩み」という調査結果があります。この問題については、どのように向き合えばいいのでしょうか。
岩井: 少し私の体験をお話させてください。私が若くして中間管理職に昇進したとき、仕事の進め方が強引でとても苦手だった人が自分の上司になったことがあります。そこで、私が実践したことは距離を置くことではなく、むしろ「相手の懐に入る」ことでした。自分の思っていることを正直に伝えたのです。「あなたは間違っている。もっとこうするべきだ」と。
すると、以前よりも関係が良くなり、状況は好転しました。プライベートなことでも相談できる関係になったのです。アドラー心理学でも、苦手意識がある人とは「ときには恐れずに対決(主張)する」ことが大切だと説明しています。ちきんと主張することでしか状況は変化しないということです。
――しかし、状況が良くなるとは限らないのでは?
岩井: 確かにそうですね。もし、どうしても「対決する」ことが無理だという場合は、次のように考えてみてください。苦手なその人と離れるために、自分が仕事で結果を出すことで相手を早く出世させたり、自分が出世すればいいのだと。そうすれば、仕事もはかどるし、一石二鳥ですよね(笑)。
また、その相手は仕事仲間ではありますが、生涯付き合う仲間というわけでもありません。目標・目的の共有ができて、協力関係ができていれば良いわけです。個人的な「好き」「嫌い」を意識する必要はないのです。
それと、その苦手な人と実際に関わっている(話している)時間は1日の中で5%くらいのはずです。しかし、本人がその苦手な人を意識をしているために、まるで50%を占めているように感じてしまう人が多いのです。
このように、自分で勝手に意識して疲弊してしまうケースはよく見られます。その点は気を付けてほしいですね。
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