日本車はガラケーと同じ末路をたどるのか?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
最近、世間ではこんなことがよく言われている。電気自動車の時代が到来することによって中国車が台頭し、日本車はガラケーと同じような末路をたどるというのだ。果たしてそうなのだろうか?
技術の肝はエンジンではない
大きな絵柄はこれまで述べてきた通りだが、エンジニアリングの領域でも難しい部分が大いに残っている。エンジンをモーターに置き換えれば、汎用モーターやバッテリーが数多く存在することから水平分業が可能に思われるかもしれないが、実は自動車設計のノウハウとして最も難しいポイントはシャシーにある。走る、曲がる、止まるという基本を自然に行うだけでも膨大なノウハウがいる。加えて衝突安全性能や軽量化技術、低コスト化に関して、設計だけでなく膨大なデータと生産技術が求められる。
リーマンショックで米国ビッグ3から早期退職したエンジニアを大量に獲得できたテスラはかなり幸運だったが、そうして多くのエンジニアを獲得してさえ、テスラのシャシー性能は決して高いとは言えない。
具体的に言えば、挙動の情報フィードバックが希薄過ぎる。高度に細分化されたエンジニアは、メーカーが長年積み上げてきた自社のクルマへのビジョンと知見があるからそこで能力が発揮できるのであって、そうしたリファレンスがないところで「さあクルマを作れ」と言われても、クルマを作る基準線が保てない。
読者の中には「そんなこだわりが時代に置いていかれる原因になる」と考える方もいるかもしれないが、キャリアにビジョン設計の多くを握られて、自社の製品ビジョンが十全に機能しなかった家電メーカーと、ビジョンを持って障壁を乗り越え、今なお生き残りのためのビジョンを必死に更新し続けながら製品を作っている自動車メーカーとのどちらが市場競争を勝ち残っているのかを一考していただきたい。
ガラケーと同じ末路をたどることはない
さて最初の三段論法に戻ろう。「電気自動車の時代」という言葉は定義が曖昧だ。電気自動車は米国の規制によって増えざるを得ないのは確かだ。だが、それが内燃機関に完全に置き換わるようなことにはまずならない。なぜなら世界の国の中で、すべての自動車を電気に置き換えられるほどインフラ電力に余剰がある国は1つもない。仮に超長期的に見ればそうなるとしても、相当に時間がかかるだろう。
2つ目の「技術がコモディティ化して参入障壁が下がる」という点については、クルマ本体についてはシャシー技術がネックになり、販売やサービスの面についてはコモディティ化はしようがない。
最後に中国の時代が来るかどうか。中国の経済成長が続けば緩やかに中国車のシェアが上がっていくことはあるだろう。だが、それがフィーチャーホンが中国製スマホに取って代わったような劇的な形で、ここ10年程度の間に起きるかと言えば、それはあり得ない。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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