電車の色にはこんな意味がある:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/3 ページ)
普段、何気なく乗っている電車の色。実はそこにはさまざまな理由や鉄道事業者の思いがある。路線案内という機能だったり、ブランドだったり。色を統一した会社も、自由な色使いができる会社も、それなりの理由があるのだ。
湘南新宿ラインと上野東京ラインが気になる
ところで、首都圏の鉄道路線の色で、気になることがある。湘南新宿ラインと上野東京ラインだ。東海道本線方面と、東北本線(宇都宮線)・高崎線に直通する電車は、どちらも同じ色。銀色の車体にオレンジと緑色のラインが入っている。ほぼ同じ経路を走っているとはいえ、東京駅に行こうと思ったら新宿経由だったり、その逆だったり。車体の色がアテにならない状況がある。
駅の案内放送、発車案内表示、車体の前面や側面の表示器にはきちんと表示されているから、不便というわけではない。強いて言えば、動いている状態のLED表示は、従来の方向幕に比べると見づらいと思う。乗車時に確認する分には問題ないとはいえ、せっかく同一路線同一色というシステムを作り上げたところで、この紛らわしさはもったいない。
事情は分かる。車体がステンレスになる以前から、オレンジと緑色は、東海道本線のイメージカラーだった。東北本線、高崎線もそうだ。しかし、3路線とも同じ色にもかかわらず、過去には問題にならなかった。それぞれ、上野駅と東京駅で運行経路が分断されていたからだ。東北本線と高崎線は間違えやすかったかもしれないけれど、上野〜大宮間は同じ経路だったし、上野駅、大宮駅では異なるホームを使うなどの工夫もあった。
南北の2つの路線が接続しただけなら、それほど不便ではない。しかし、上野東京ラインの誕生で、途中で経路が分かれて合流する形になっている。本音を言えば、湘南新宿ラインと上野東京ラインで、せめて帯の色を変えるくらいの工夫はほしい。しかしこれも難しい。湘南新宿ラインと上野東京ラインは、車両を使い回している。効率的に車両を使うため、どちらか1つの路線に限定できない。直通運転の便利さと色分けできない事情はトレードオフの関係にあり、現在の方が良い。
こういうことを言い始めるとキリがない。名古屋鉄道も行き先ごとに色を変えてくれたらどんなに便利だろうと思う。しかし、やはり車両を運用する上で難しい。車体の色に機能性を持たせるというアイデアは素晴らしいものだけど、まだまだ改善すべきことは多い。いっそ、車体の帯部分を全てLED化して、走行路線ごとに異なる色に……と思うけれど、かなりお金がかかりそうだ。
私たちは無意識に、車体色の便利さに慣れてしまった。電車に乗るときは、行き先をちゃんと確認しよう。
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