「瑞風」「四季島」のポジションは? 旅づくりのプロが観光列車を分類:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)
6月17日、JR西日本の「トワイライトエクスプレス瑞風」が運行を開始する。JR3社のクルーズトレインが出そろったことで、日本の鉄道旅が新たな高みに到達したといえる。いまや“観光列車”が鉄道業界と旅行業界のキーワードだが、そもそも観光列車とは何か。ビジネスとして語る上で、そろそろ情報の整理と定義が必要だ。
観光列車はレジャー産業だ
JR九州のななつ星in九州は、「列車が移動手段ではなく、旅の目的になった」という認識を広めたが、この流れはもっと前から始まっていた。JR九州は1988年以降、「SLあそBOY」「ゆふいんの森」で観光列車の取り組みを始めている。その後、2004年から南九州方面に観光列車の投入が始まり、11年の「あそぼーい!」「指宿のたまて箱」「A列車で行こう」も話題になった。
ちなみに、04年は九州新幹線鹿児島ルートの新八代〜鹿児島中央間で部分開業、11年は博多まで全線開業している。九州新幹線に乗ってもらうために、目的地を盛り上げる列車を作ってきた。その“乗ること自体を楽しむ列車”の経験が、ななつ星in九州で結実した。
しかし、これをもって観光列車を“移動手段ではなく目的となる列車だ”と定義はできない。私のような乗り鉄にとっては、どんな列車も目的になってしまう、という冗談はともかく、三重県の三岐鉄道は月1回「年金相談列車」を走らせている。社会保険労務士が乗車し、1人15分間の無料相談に応じる。乗車が目的になるけれど、これを観光列車とは呼べない。
アニメキャラクターをラッピングした列車を観光列車と呼ぶ事例がある。JR西日本の「ゲゲゲの鬼太郎」列車やJR四国の「アンパンマン特急」だ。確かに乗車の目的になり、観光客の誘致につながる。しかし、これを観光列車として認めると、東武鉄道の「クレヨンしんちゃん」や、西武鉄道の「銀河鉄道999」をラッピングした通勤電車も観光列車になってしまう。
そこで、私の観光列車の定義は、「鉄道事業本来の“輸送”ではなく“娯楽”を提供する列車」とした。交通事業ではなく、レジャー産業だ。レジャー産業に必要な要素は、特別な施設、特別な食事、特別な物販の3要素だ。一定区間を走る列車を設定し、その列車でなければ体験できない車両設備を持ち、その列車でなければ食べられない食事があり、その列車の車内販売でなければ買えない土産品がある。この条件のうち、1つでも該当すれば観光列車としよう。
クルーズトレイン御三家は3つの条件に該当する。星3つだ。トロッコ列車は食事や土産の販売がない。星1つ。小田急電鉄のロマンスカーは食事サービスがあるから観光列車。しかし、食事サービスがない「ホームウェイ」は除外。この定義ならば、そんな線引きもできる。こうして各地の観光列車を拾い上げた結果が、冒頭に示した“120以上”である。
この時期、各地で開催されるビール列車を観光列車に含むか悩む。豊橋鉄道の「納涼ビール電車」は25年の歴史がある。長年の集客の努力と継続した実績は、これから観光列車を手掛ける人々の参考になると思う。飲食サービスを提供していればレジャー産業であることに間違いなく、ビール電車もリストに加えたい。そうなると、観光列車はまだまだ増える。
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