「瑞風」「四季島」のポジションは? 旅づくりのプロが観光列車を分類:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)
6月17日、JR西日本の「トワイライトエクスプレス瑞風」が運行を開始する。JR3社のクルーズトレインが出そろったことで、日本の鉄道旅が新たな高みに到達したといえる。いまや“観光列車”が鉄道業界と旅行業界のキーワードだが、そもそも観光列車とは何か。ビジネスとして語る上で、そろそろ情報の整理と定義が必要だ。
旅行会社のプロが観光列車を分類
最近の観光列車の増加は、九州新幹線の開業と集客、JR九州の成功がきっかけとなっている。全国でデビューした観光列車を登場年ごとに数えると、2010年までは1〜5本程度だった。しかし11年は10本、12年は4本、13年は8本、14年は13本、15年は10本、16年は11本、17年は今のところ10本。毎年のように10本以上の新観光列車が登場している。
増え続ける観光列車について、旅行の実務に携わる人はどう考えているか。学ぶ機会があった。6月11日に開催された「ローカル鉄道・地域づくり大学」の特別講座で、日本旅行の瀬端浩之氏が登壇し、観光列車を分類した。瀬端氏には12年に鉄道ツアーについて、16年に「ながまれ海峡号」について、伺っている。鉄道ツアー、観光列車の仕掛け人だ。
瀬端氏によると、観光列車とは「乗ることが観光の目的となりうる列車(鉄道、車両)」とのこと。一言で明快な定義だ。そして、現在の観光列車を4つの型に分類し、それぞれの型の組み合わせで成り立っていると説明した。4つの型は、「観光鉄道型」「観光車両型」「付加価値型」「観光線区(観光区間)型」である。
観光鉄道型は、存在そのものが観光用途となっている鉄道だ。富山県の黒部峡谷鉄道、京都府の嵯峨野観光鉄道が例に挙がった。厳密に言うと、黒部峡谷鉄道は関西電力の発電所に資材を輸送する役目もあるが、旅客営業はほぼ観光用途に限定される。類型としては大井川鐵道井川線も含めてよさそうだ。
嵯峨野観光鉄道は、山陰本線の旧線を再利用した観光鉄道だ。鉄道輸送本来の役目は新ルートになった山陰本線が担っており、旧線は観光用に残された。また、類型として門司港レトロ観光線がある。こちらは鉄道事業法改正で加えられた「特定目的鉄道事業」の適用を、観光鉄道として初めて受けた。
観光車両型は、車両に特徴があったり、観光のための長時間停車が行われたりと、車両、列車に乗る目的がある列車だ。ストーブ列車、展望座席を備えた列車がここに含まれる。
付加価値型は、食事や車内イベントなどがあり、通常の列車と比べて付加価値が大きい列車だ。食事サービス付き列車のほとんどがここに含まれる。付加価値のみで分類するため、ここでは車両の造作は問わない。観光車両型で食堂車やテーブルが付いている車両ではなくてもいい。普通列車にテーブルを設置しただけ、という形態でも付加価値を搭載できる。
観光線区(観光区間)型は、通常の車両で、通常の輸送に使われる路線であっても、観光要素の強い路線や区間を走る列車を含む。通常の普通列車でも、桜や紅葉の時期に一定区間で減速運転すれば、観光要素ありとする。例に挙がったJR北海道「流氷物語号」は、通常車両にラッピングを施しただけ。観光案内人が乗車する。
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