古くて新しい、JR東日本の「新型電気式気動車」:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/4 ページ)
JR東日本は世界で初めて鉄道車両に営業用ハイブリッド方式を採用した。しかし、2018年から非電化ローカル線に導入する車両は「電気式気動車」だ。この方式は戦前からある。なぜハイブリッド方式ではなく電気式気動車を選んだか。そこにエネルギー技術の理想と現実が見える。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
都会生まれのタレントさんがテレビ番組で地方ロケに行き、「電車に乗ります」などと言うと「それはディーゼルカー(気動車)だから電車じゃない!」と鉄道ファンの皆さんからツッコミが入る。それは正しいけれど、もはや列車の一般名称として電車が広まっており、「電車かホントは気動車か」なんて、どっちでもいい話だ。地方の非電化路線を旅すると、地元の人々も「電車」と呼んでいる。だからもう、視聴者の指摘を受けて「※電車ではなく気動車です」なんてやらなくていいと思う。どうせ真剣に訂正するつもりはなくて、「鉄オタめんどくせぇな」くらいの気持ちだろう。
最近、電車か気動車かを考え始めると、ややこしいことになってきた。実は純然たる気動車は減っていて、ハイブリッド方式など新しい動力方式が増えている。ハイブリッド方式の車両はディーゼルエンジンを積んでいる。しかし車輪にはつながっていない。エンジンで発電し、モーターを駆動する。JR東日本の烏山線、男鹿線、JR九州の筑豊本線では「蓄電池電車」が走っている。バッテリーに充電した電力でモーターを駆動する方式だ。
ハイブリッド方式は純然たる気動車ではない。電車と言われても否定しきれない。蓄電池電車は、紛うことなき電車だ。架線もパンタグラフもないけれど電車である。鉄道ファンでなければ、電車か気動車かなんて見分けがつかない。
そして2018年に新たな動力方式が加わる。「電気式気動車」だ。JR東日本が新潟・秋田地区に新型電気式気動車「GV-E400系」を投入する。簡単に言うと、ハイブリッド方式からバッテリーを省いた駆動方式だ。エンジンで発電機を回し、その電力でモーターを回す。エネルギーの流れから表記すれば「気動式電車」でも良さそうだが、JR東日本の区分では「気動車」にしておきたいようだ。
電化区間だけを走る車両が電車、非電化区間も走行できる車両の代名詞が「気動車」。しかし、蓄電池式電車は電車扱いだ。烏山線の列車番号の末尾記号は気動車時代はD、現在は電車を示すMになった。Dはディーゼル、Mはモーターに由来する。烏山線は烏山駅に充電設備を作った。これをもって電化という扱いのようだ。
さて、電気式気動車「GV-E400系」については、18年度に量産先行車として2両編成と1両編成を1本ずつ、計3両を製造する。その後、新潟・秋田地区には63両を導入する計画だ。JR東日本全体では約150〜250両を製造し、全国の非電化区間に順次投入する予定となっている。なお、この車両はJR北海道も採用する。寒冷地仕様の「H100形」とし、非電化区間普通列車向けの次期主力車両になる。
JR東日本は07年に世界に先駆けてハイブリッド方式車両の営業運行を開始した。小海線の「キハE200形」で、3両を投入した。その後、仙石東北ラインに「HB-E210系」を8編成16両、観光列車用として「HB-E300系」を5編成14両導入している。ここまでハイブリッド方式車両は33両。そして、これから導入される電気式気動車は最大250両。JR東日本はハイブリッド方式車両の先駆者でありながら、次世代非電化区間向け車両は電気式気動車に見定めたといえそうだ。
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