古くて新しい、JR東日本の「新型電気式気動車」:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)
JR東日本は世界で初めて鉄道車両に営業用ハイブリッド方式を採用した。しかし、2018年から非電化ローカル線に導入する車両は「電気式気動車」だ。この方式は戦前からある。なぜハイブリッド方式ではなく電気式気動車を選んだか。そこにエネルギー技術の理想と現実が見える。
なぜバッテリーを取り払ったか
JR東日本はお得意の最先端ハイブリッド方式ではなく、一歩手前の電気式気動車を大量に投入し、次期非電化区間の主力とする。考えられる理由としては、ハイブリッド方式の長所よりも、バッテリー搭載の短所を取り除くことを重視したからだ。
バッテリー搭載の最大の短所は、機構が複雑であること。エンジンとモーターを搭載するだけでも、既存の気動車より複雑である。ここにバッテリーを加え、回生ブレーキ機構を搭載すれば、さらに複雑になる。車両の生産コストも維持コストも大きくなる。投入先は赤字のローカル路線だ。走らせれば赤字という路線で、コストの大きな車両は投入できない。
次に、バッテリーの重さだ。大容量バッテリーを搭載すれば、車体は重くなる。閑散線でガラガラの状態でも、バッテリーを運ぶためのエネルギーが必要になる。これが電力回生システムで節約できるエネルギーよりも大きいとなれば、バッテリーを外して車体を軽くした方がいい。
バッテリー容量を小さくすればいいという問題でもない。電力回生ブレーキは、バッテリーが満充電になると作動しない。回生電力の行き場がなくなってしまうためだ。これを回生失効という。電車の場合は回生電力を架線に戻すから、他の電車の走行に使えるし、地上の充電装置にためておける。しかし、ハイブリッド車両は自分の内部で処理するしかない。回生失効を防ぐためにも、バッテリー容量は大きめにしたい。そうなるとますます重くなる。
外部要因としては、JR東日本が地方線向けの車両を公募調達したからだとも考えられる。仕入れの透明性、公平性を重視するという会社の方針のもと、海外メーカーも含めて応募可能とした。ただし、ハイブリッド方式は制御が複雑で、開発と製造ができるメーカーは少ない。現段階では「幅広く公募調達」にならない。
そこでJR東日本は、2017年度中に八戸線に投入する気動車については既存の気動車を採用した。既存車両の老朽化が進行し、電気式気動車の開発が間に合わなかった。そして、18年からの調達は、海外で実績のある電気式気動車となった。
電気式気動車はハイブリッド方式より省エネ効果は少ない。しかし、既存の気動車よりメリットが大きい。モーター駆動のため、電車と同じ性能を期待できる。液体変速機が不要で、エンジン出力のロスが少ない。モーターは台車に組み込まれ、エンジンとモーターは電線で結ばれる。床下に設置したエンジンと車輪を直結するためのドライブシャフトが不要になる。機構が簡素化されることで故障の原因が減り、重量の削減にもつながる。
今後、バッテリーの小型軽量化など技術が進めば、閑散路線向けにハイブリッド方式の車両が登場するだろう。JR東日本はハイブリッド方式を捨てたわけではない。現時点の閑散路線向けには不向きというだけだ。
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