古くて新しい、JR東日本の「新型電気式気動車」:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)
JR東日本は世界で初めて鉄道車両に営業用ハイブリッド方式を採用した。しかし、2018年から非電化ローカル線に導入する車両は「電気式気動車」だ。この方式は戦前からある。なぜハイブリッド方式ではなく電気式気動車を選んだか。そこにエネルギー技術の理想と現実が見える。
ハイブリッド方式が後からできた
JR東日本の電気式気動車も、考え方としてはJR貨物の機関車と同じだ。小型ながらハイパワーのエンジンと、インバータ制御、高性能三相交流モーターによって実現した。ただし、ここに至るまでにもう1つの段階を経る。ハイブリッド方式である。
ハイブリッド方式の先駆けは自動車だ。トヨタ自動車の「プリウス」の成功で注目された。しかし、プリウスのハイブリッド方式とJR東日本の鉄道車両のハイブリッド方式は異なる。プリウスの場合はエンジンとモーターの力を両方とも車輪に伝えられる。その配分を電子制御と動力分割機構でコントロールする。これはスプリット方式ハイブリッドという。クルマにはもう1つ、パラレル式ハイブリッドがあって、これもエンジンの動力が車輪に伝わる。
一方、鉄道車両のハイブリッド方式はエンジンを発電だけに使う。車輪を回す力はモーターだけ。つまり、モーターを高回転させるなど電力量を増やしたいときにエンジンの回転数を上げる。ここまでは電気式気動車と同じだ。ただし、バッテリーを搭載して、エンジンを止めてバッテリーの電力だけで走行可能だ。また、減速時に回生ブレーキを作動させ、モーターから電力を発生させてバッテリーに充電する。エンジンの発電とバッテリーの電力によるハイブリッドだ。この方式はシリーズ式といって、クルマでは日産自動車の「ノートe-POWER」で採用されている。
JR東日本が開発した電気式気動車は、鉄道車両のハイブリッド方式から走行電力用のバッテリーを取り払った方式である。バッテリー電力を使った走行は不可。エンジンは常に回転してモーターへ電力を供給しなくてはいけない。電気をためられないから、回生ブレーキも使えない。従って、電力の効率的な再利用もできない。
逆に言うと、電気式気動車の電力をもっと効率的に使うためにバッテリーと回生ブレーキを取り付けた方式がハイブリッド気動車とも言える。JR東日本の採用実績順では逆転したけれど、技術的には電気式気動車があって、その延長にハイブリッド気動車がある。
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