夜間も悪天候も無関係、日本がリードする小型レーダー衛星とは?:宇宙ビジネスの新潮流(1/2 ページ)
世界で衛星ビジネスが盛り上がる中、カメラを用いて写真や動画を撮影する光学衛星とは違い、夜間も悪天候も関係なしに観測可能な小型レーダー衛星が注目されている。その開発をリードするのが日本なのだ。
衛星ビジネスと聞いてどのようなものをイメージするだろうか。実は今、カメラを用いて写真や動画を撮影する光学衛星とは違い、夜間も悪天候も関係なしに観測可能な小型レーダー衛星の開発が日本で行われており、世界から注目されているのだ。
米国業界リーダーも注目
6月末に米国・サンフランシスコで行われた宇宙カンファレンス「NewSpace 2017」で講演した、衛星データ解析企業のトップランナー、米Orbital Insightのジェームズ・クロフォードCEOは「SAR衛星(合成開口レーダー衛星)を活用すれば、(同社が推進する石油備蓄タンクのモニタリングが)24時間監視可能になる」「SAR衛星データの活用可能性として商業活動の集中するPort(港)における船の数の観測などがある」と語るなど、レーダー衛星に大きな期待を寄せた。
近年、小型衛星ビジネスをリードしてきたのはカメラを使った光学衛星だ。光学衛星の特徴は鮮明な画像や動画が撮れる一方で、弱点としては夜間や悪天候時の撮影ができないことだ。
米国では、光学衛星の開発・運用に関しては4月に米Planetが米Google傘下の衛星ベンチャー企業、米Terra Bellaを買収するなど合併が加速、産業として一巡してきたこともあり、投資家や業界リーダーの関心は光学衛星の次となる衛星技術に移り始めている。その1つがレーダー衛星なのだ。
日本で進む小型レーダー衛星開発
レーダー衛星の基本的原理は、衛星に搭載したアンテナから電波を発射し、観測する対象物に当たって反射した電波を観測する。反射した電波の強さから対象物の大きさや表面の性質、電波が戻ってくるまでの時間で対象物までの距離などを測定することが可能だ。光学衛星が苦手とする夜間や悪天候でも関係なく観測できる強みがある。
しかしながら、電波の送受信に大量の電力消費と大きなアンテナを要するため、小型化に向いてなかった。そのため、現在世界で運用されているレーダー衛星の多くは1000キログラム以上するものが多く、開発にも数百億円かかるため、国家主導で行われることが多い。
ところが、近年は小型化技術においてブレイクスルーが始まっている。そして、世界も注目する小型レーダー衛星の開発プロジェクトが2つも日本で行われているのだ。
小型レーダー衛星の開発に取り組むベンチャー企業が、九州に本社を構えるQPS研究所だ。同社が目指すのは分解能1メートル、100キログラム以下、1機当たり10億円以下 の小型レーダー衛星であり、その実現の核となるのが千葉大学とともに開発した独自の大きくて軽いアンテナ技術だ。既に2016年12月にアンテナとレーダー送受信機を搭載したSARシステムの第1号案件を納入済みだ。
QPS研究所は05年に九州大学名誉教授である八坂哲雄氏を中心に創業。10年以上に渡り、小型衛星に関するエンジニアリング事業を行い、同時に宇宙業界に興味のある九州の地場中小企業を育ててきた。
そんな同社がレーダー衛星に着目したのが、現在CEOを務める大西俊輔氏が参画した後の15年だ。大西氏は当時を振り返り、「他人とは違う分野をやろうと考えた」と語る。同社は8人体制で、開発をリードするのが大西氏、管理部門をリードするのがハーバード大学でMBAを取得し、米国でのベンチャー経験もある市來敏光COOだ。
今後は最初の1機を18年から19年に打ち上げ、「その後23年までに4機体制を構築して世界のほぼどこでも平均1.5時間で観測できる体制を目指す。将来的には36機の衛星を打ち上げて平均10分で撮影を可能にする衛星コンステレーションを目指す」と大西氏は目標を語る。衛星インフラに併せて地上インフラの構築も進めていくという。
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