夜間も悪天候も無関係、日本がリードする小型レーダー衛星とは?:宇宙ビジネスの新潮流(2/2 ページ)
世界で衛星ビジネスが盛り上がる中、カメラを用いて写真や動画を撮影する光学衛星とは違い、夜間も悪天候も関係なしに観測可能な小型レーダー衛星が注目されている。その開発をリードするのが日本なのだ。
政府による研究開発プログラムも推進
力を入れているのはベンチャー企業だけではない。内閣府の科学技術政策である革新的研究開発推進プログラム(通称:ImPACT)でも小型レーダー衛星の開発が着実に進んでいる。
同プログラムが当初目標としていたのは、分解能1メートル級、重量100キログラム級(従来の10分の1以下)、量産時の1機当たりコスト20億円(従来の10分の1)、打ち上げ後数十分〜数時間で即時観測という、高い目標だった。これは用途として自然災害や人為災害など緊急事態への即時対応を想定していたものだった。
しかし、17年4月には、この目標はさらに上方修正され、SARの性能はそのままで、量産時の重量は100キログラム以下、1機あたりのコストは5億円以下というものとなった。これは、災害時の即時対応利用だけでなく、コンステレーションによる常時利用をターゲットに入れたからとのことである。
上記を実現するために、同プログラムでは世界に前例のないアンテナ技術とマイクロ波増幅器、高速データ伝送システムを開発している。プログラムマネジャーを務めるのが慶應義塾大学大学院システムデザインマネジメント研究科の白坂成功教授だ。白坂氏は三菱電機出身、その後航空宇宙大手欧Airbusに交換エンジニアとして参加。現在は内閣府の宇宙政策委員会のメンバーでもある。
白坂氏はレーダー衛星およびImPACTの可能性を「光学衛星が増えれば増えるほど、同じ時間では見えていない場所のほうが多いことに気付いたはず。世界中が小型のSAR衛星を熱望し始めた理由です。一方で、SAR衛星を小型化するには、アンテナだけでなく、電気系、熱系、通信系、制御系のすべての総合力が必要となる。それが世界で小型SAR衛星がまだ実現できていない理由であり、ImPACTが解決しようとしているところです」と語る。
このように、世界に先駆けて小型レーダー衛星の開発が進む日本だが、近年は欧米でも動きがある。フィンランドに拠点を置くICEYE、米国のCapella Spaceなども小型レーダー衛星の開発に取り組んでおり、資金調達を進めているという報道が流れる。技術の優位性を、いかにして事業の優位性につなげていくか、そして衛星インフラ構築とともに、データ解析をどのように進めていくか、日本の取り組みに期待したい。
著者プロフィール
石田 真康(MASAYASU ISHIDA)
A.T. カーニー株式会社 プリンシパル
ハイテク業界、自動車業界、宇宙業界などを中心に、10年超のコンサルティング経験。東京大学工学部卒。内閣府 宇宙民生利用部会および宇宙産業振興小委員会 委員。民間宇宙ビジネスカンファレンスを主催する一般社団法人SPACETIDE代表理事。日本発の民間月面無人探査を目指すチーム「HAKUTO(ハクト)」のプロボノメンバー。主要メディアへの執筆のほか、講演・セミナー多数。
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