JR九州が発表した「全路線の通信簿」から見えること:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)
JR九州が2016年度の路線・区間別の平均通過人員を発表した。いわば路線の通信簿だ。JR九州発足時のデータも併せて比較できるようにしている。JR九州の意図は廃線論議ではなく「現状を知ってほしい」だろう。この数値から読み取れる現状とは何か。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
7月31日、JR九州は公式サイトに「路線別ご利用状況」を掲載した。一般の会社で言うところの「部門別業績一覧表」に似ているけれど、損益を示す数値ではない。各路線がどれだけ稼いだか、ではなく、各路線がどのくらいお客さまを乗せているか、を示している。言い換えれば、各路線が沿線地域にどれだけ貢献しているか、沿線地域の人々はどれだけ鉄道を利用しているかが分かる。つまり、各路線の公共性を示すといえる。
平均通過人員という耳慣れない言葉。これは旅客鉄道事業にとって、客をどれだけ運んでいるかを示す。数字が大きければ高評価で、小さければ低評価。主に赤字路線の廃止問題で引き合いに出される数値だから、平均通過人員という言葉自体が不穏な響きと受け取られ、地域の人々や鉄道ファンをソワソワさせる。
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