南福岡自動車学校が“人生相談”を始めた理由:斜陽産業で戦う改革者(1/3 ページ)
少子化の影響で苦境に立たされている自動車教習所業界。この逆境の中でもユニークな取り組みを実践し、入校者数を伸ばしている教習所が南福岡自動車学校だ。その取り組みとは?
少子化と若者のクルマ離れなどの影響で、国内の自動車教習所(以下、教習所)は苦境に立たされている。警察庁が発表している「運転免許統計」によると、2016年の教習所の年間卒業生数は約150万人で、ピークだった91年から約100万人も減少。教習所も約200以上閉鎖されている。
また、近年急速に発達している自動運転技術によって、将来的に「運転」が不要になる可能性があることから、教習所は“斜陽産業”と言われるようになった。
しかしいま、こうした逆境の中でもユニークな取り組みで入校者数を伸ばしている社長がいる。福岡県大野城市にある南福岡自動車学校の江上喜朗社長だ。
12年に父親から経営を引き継いだ江上社長は、減少していた入校者数を3年で約200人増加させ、減収減益が続いていた業績を反転。16年度の売り上げは11億2000万円で、過去最高を記録した(年間入校者数は2943人)。
江上社長は「若者の人生相談に乗るなど、“おせっかい”を続けた結果」だと話すが、どういうことか。江上社長に話を聞いた。
「上から目線で教える時代は終わり」
56年に創業した同校はもともと、福岡県内で最も入校者数が多い教習所だった。しかし、92年以降続く18歳人口の減少を受けて、入校者を集めることが次第に困難になっていったという。業績も減収減益が続いていた状態で、江上社長は同校の経営を父親から引き継いだ。
当時、江上社長が最も課題に感じていたのは、生徒に対する教員の指導方針だった。昔から同校では「厳しく教える」というスタンスが当たり前。この状態のままで、集客力を回復させるのは不可能だと思ったという。
「今の生徒はクルマが好きなわけではなく、免許を持ちたい理由も『就活で不利にならないため』『親に言われたから』など消極的なものが大半で、そもそも免許取得に対するモチベーションが低いんですよね。しかも、昔と比べて怒られることに慣れていない人も増えてきました。そうした中で、厳しく教えるだけのスタンスを続けていたのでは、ここに入校したいと思ってもらえません」(江上社長)
そこで江上社長は、教習所を単に運転技術を教える場にするのではなく、教習中や、その前後の時間を利用し、「教員とのコミュニケーション」も楽しめる場に変えることに注力した。
会話を盛り上げるだけではく、進路や就活、恋愛などの“人生相談”に教員が本気で向き合うのだという。
教習所の生徒は18〜22歳が中心。多感な時期だが、気軽に相談ができる大人が周囲にいないという人も多い。「南福岡自動車学校に行けば、まるでカウンセラーのような教員が悩める若者たちのさまざまな相談に乗ってくれる」――と、他の自動車学校にはない価値を加えることで、差別化を図ろうと考えたのだ。
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