生鮮も売る「フード&ドラッグ」に地方の可能性を感じた:小売・流通アナリストの視点(2/4 ページ)
ドラッグストア業界の動きが目まぐるしい。マツモトキヨシの首位陥落、そしてすぐさまツルハの首位奪取という変動は、業界のシェア競争が終盤戦に入ったことを感じる。そんな中、地方で興味深い業態が目についた。
食品や生活雑貨も充実したドラッグストア
地方での競争を勝ち抜いて、地域有力ドラッグストアとなった企業の中には「フード&ドラッグ」と呼ばれる業態のドラッグストアがある。広さは食品スーパー程度、「(食品スーパー+ドラッグストア+生活雑貨)×低価格」、といった品ぞろえで、生活必需品を1カ所で買うのに便利な店として重宝されている。食品売り上げ比率が伸びているドラッグストアの多くがこのタイプなのだが、クルマ依存度の高いエリアにしか存在していないので、首都圏や京阪神エリアにはその存在すら知らない人が多い。
フード&ドラッグの一般的なモデルは、購買頻度が高い食品(酒類を含む)を低価格で提供することにより集客力を高め、来店客に主力商品である薬粧を併せて買ってもらうというものである。店舗賃料の安い地方や郊外で広い売場面積を備え、食品を始めとした生活必需品(耐久消費財はほとんど置かない)を幅広く品ぞろえして、平日の買物がほぼワンストップで済んでしまう、とても便利な店、それがフード&ドラッグなのだ。
このタイプの店に馴染んでしまうと、薬粧しか売っていないドラッグストアに行くのは面倒となってしまう人が多く、地方ではこのタイプのドラッグストアが席巻し始めているのだ。
加えて食品に関しては、食品スーパーの売り上げにも大打撃を与えている。フード&ドラッグタイプの企業の有価証券報告書をひも解けば分かるが、薬粧商品で高い粗利率を確保できるため、食品の粗利率は極めて低い。乱暴に言ってしまえば、食品は集客のためのまき餌であって、ここで大きく儲けるつもりはないのである(中には計算上は経費率を下回る粗利率となっている企業も存在する)。こうした価格設定をされてしまうと、食品で利益を確保しなければならないスーパーにとって価格面では対抗しがたく、とても厄介なライバルとなっているのだ。
とはいえ、フード&ドラッグという業態は消費者の生活必需品ワンストップショッピングのニーズに完全に対応できているわけではない。生鮮食品が置いていないため、買い物は完結しない。ドラッグストアから発祥したフード&ドラッグにとって、鮮度管理やロス管理の難しい生鮮食品は、コスト上昇にしかならないため、品ぞろえから省いているのである。ただ、こうした事情は、売り手の都合であるため、消費者側からすれば、食品スーパーの生鮮の品ぞろえと、フード&ドラッグの価格と利便性を備えた店があれば、きっと流行るはずだと思っていた。
そこで探してみると、和歌山県有田郡湯浅町という小さな町に存在したのである。「廣岡グループ」というこのチェーンについて紹介したい。
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