生鮮も売る「フード&ドラッグ」に地方の可能性を感じた:小売・流通アナリストの視点(3/4 ページ)
ドラッグストア業界の動きが目まぐるしい。マツモトキヨシの首位陥落、そしてすぐさまツルハの首位奪取という変動は、業界のシェア競争が終盤戦に入ったことを感じる。そんな中、地方で興味深い業態が目についた。
ドラッグストアとは思えない和歌山の急成長企業
和歌山県北部から大阪府南部、奈良県にかけて店舗網を持つこの企業は、33店舗の「エバグリーン」というフード&ドラッグ、4店舗の食品スーパーなどを運営する総売り上げ714億円の地方中堅小売グループである。そのフード&ドラッグ店舗のうち、11店舗は生鮮食品や惣菜を食品スーパー並みかそれ以上に取りそろえた「スーパーエバグリーン」という店舗で構成されている。この企業の成長は驚異的なスピードであり、当社Webサイトによれば「売上高が10年で2.3倍」というからすごい。
一流の食品スーパーに勝るとも劣らない生鮮・惣菜を備えた食品売場に加えて、広い酒売場があり、生活雑貨や薬粧売場が十分に品ぞろえされているため、生活必需品のワンストップニーズはほぼこの店でかなえることができる。広さは大型食品スーパーより一回り大きいくらいで、総合スーパーのように「広すぎる」感覚にはならない。
その上、ドラッグストア特有の低価格も備えているこの店は地域の幅広い支持を集め、大繁盛している。ここ何年かの売り上げと店舗推移から見ると、このタイプの店舗年商は25億円以上と推計される。店舗年商を比較すれば、フード&ドラッグ最大手のコスモス薬品の6億円強をはるかに超え、食品スーパーのライフ、サミットといった大都市の有力企業と同等の売り上げを稼いでいる。それも紀伊半島周辺の人口密度で、だ。生鮮フード&ドラッグが、いかに地方において消費者ニーズに合致しているかが分かるだろう。
実は、似たタイプのフード&ドラッグを運営している企業は他にもないわけではない。サンドラッググループのダイレックスや、クスリのアオキといった企業は生鮮も備えたフード&ドラッグとして成長を続けており、便利な店として地域住民の支持を得ている。
ただ、エバグリーンがすごいのは、生鮮・惣菜を店内加工、店内調理という方式かつ、テナントではなく自社運営で提供していることにある。これは日本の食品スーパー、特にリージョナルトップクラスのスーパーの多くが採用する方式で、店内バックヤードで加工することで、できたての惣菜、切りたての肉や魚という鮮度の良い商品を提供できる利点がある。こうした鮮度訴求が消費者に伝わると、来店頻度が高くなるため、店舗年商が極大化できるというのだ。
ただし、店舗に加工拠点を分散するため、コスト高となることは避けられず、効率を重視するドラッグストアとしては採用しがたい仕組みなのである。エバグリーンがこうしたビジネスモデルにチャレンジできたのは、その祖業が食品スーパーだったからだろう。会社の歴史の中で、ドラッグストア事業の比重を高めつつも、廣岡グループの食品スーパーは品質に定評がある、優れた店を維持し続けていた。店内加工、店内調理のコスト管理が可能な食品スーパーのノウハウと、フード&ドラッグのワンストップ性の融合が今後も大きな可能性をもたらすという好例だ。
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