トヨタGRカンパニーとは何か?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
トヨタは2016年4月、巨大な組織を7つのカンパニーに分割。その1年後、予想外の部署が新たなカンパニーとして加えられた。それが「GAZOO Racing Company」(GR)だ。
創業家御曹司の憂鬱
そしてもう1つ、予想外の部署が新たなカンパニーとして加えられた。それが「GAZOO Racing Company」(GR)だ。そもそもGRの語源は「画像」である。20年前、当時営業地区担当課長であった豊田章男氏が中古車流通のシステム改善を目指して開発した「中古車画像システム」の名前である。下取り車を最速で販売ルートに上げることを目指したこのシステムは、単に画像だけでなく、リアルな中古車の再商品化システムの改善も同時に進めるものであった。
「トヨタ生産方式」をベースにして、流通の無駄を削減することを目指した、当時としては画期的なこのシステムは、トヨタ内部の強い反発に遭った。「画像でクルマが売れれば苦労はない」「メーカーの理屈を販社に持ち込んでも通用しない」。まだインターネットの普及は黎明期で、ネットの情報を活用してビジネス化するという概念が受け入れられにくい時代でもあった。
そして当時も今も、豊田章男氏の創業家のプリンスという肩書きは、それ自体が崇拝と反発の両面を生み出す。その逆風は、画期的な中古車画像システムに「トヨタ」の名前を使うことを許さなかったほどだ。やむなくそのシステムはGAZOOを名乗った。
かつて豊田社長がテストドライバーの成瀬弘氏から「運転の分からない人にああだこうだと言われたくない」と拒絶され、運転の教えを請うために弟子入りした有名な逸話がある。さまざまな話を聞く限り、豊田章男という人は必ずしも世渡りの器用な人ではない。多くの抵抗とぶつかりながら、例えば「運転がうまくなる」という独自の方法論によって、周囲を説得して話を聞いてもらえる土壌を作り、少しずつ統率を信任させてきた人だと思う。
しかし大トヨタという組織での反発はそう生半可なのものではない。後にニュルブルクリンクのレースを始めたとき、トヨタの名前を使うことはおろか、豊田章男と名乗ることさえ許されなかった。「モリゾー」という名前はそうした中で付けたドライバーネームである。
これらの話を、豊田章男派とアンチという単純な絵柄にまとめる気はないが、それぞれの信じる正義がぶつかり合う中で、創業家を名乗る豊田社長は一方の象徴にされやすい。自らの信奉する改革を押し通し、実現させていくには力がいる。恐らくGAZOOとは豊田章男の力の源泉として機能してきたはずだ。
関連記事
- トヨタの“オカルト”チューニング
ビッグマイナーチェンジした86の試乗会でトヨタの広報がこう言うのだ。「アルミテープをボディに貼るだけで空力が改善します」。絶句した。どう聞いてもオカルトである。実際に試したところ……。 - スポーツカーにウイングは必要か?
数年前から相次いで復活しているスポーツカー。スポーツカーと言えば、エアロパーツが象徴的だが、果たしてウイングは必要なのだろうか? - トヨタと職人 G'sヴォクシーという“例外”
恐らく世の中で売られているあらゆるクルマの中で、最も厳しい要求を受けているのが5ナンバーミニバンである。今回はそのミニバンを取り巻く無理難題について伝えたい。 - 歴代ロードスターに乗って考える30年の変化
3月上旬のある日、マツダの初代ロードスターの開発に携わった旧知の人と再会した際、彼は厳しい表情で、最新世代のNDロードスターを指して「あれはダメだ」とハッキリ言った。果たしてそうなのだろうか……? - ヴィッツとトヨタの未来
かつてトヨタのハイブリッドと言えばプリウスだったが、今やさまざまな車種バリエーションが展開、ついにはヴィッツにも採用された。その狙いや特徴などを考えたい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.