加速する「AI型店舗」 小売の現場はこう変わる:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
AI時代の到来で小売店も大きく変わろうとしている。AIを活用した次世代型の店舗は、従来の小売店のビジネスをどのように変えるのか。先進企業の事例を紹介しつつ、解説する。
不特定多数ではなく「その人」に売っていく
一連の取り組みにおける共通項は、属性が分かっている特定顧客層へのフォーカスである。これは従来型小売店とネット通販型小売店との対比でもある。
従来の小売店は、商品を並べておき、不特定多数の顧客が来店することを「待つ」ビジネスであった。つまり従来型小売店は、受動的ビジネスというニュアンスが強い。ところがネット通販は同じ小売店といっても基本的な概念がまるで異なっている。
ネット通販企業の多くは、利用者を会員として囲い込み、購買履歴を徹底的に分析することで、顧客からの売上高を最大化している。場合によっては顧客の隠れたニーズも見つけ出すので、かなり能動的なビジネスといってよい。
つまりAIを活用した次世代型の店舗は、従来の小売店とは異なり、限りなくネット通販に近い考え方となる。
スマホでおすすめ商品を紹介というと、想像できる範囲内なので、従来と大した違いはないと思う読者の方もいるかもしれない。だが、属性が分かっている来店者を前提に商品を構成することと、不特定多数を前提に商品を構成することには、天と地ほどの違いがある。
ネットの普及が始まった段階では、ネットとリアルをどう融合するのかが課題だった。だがAIの進歩によって、不特定多数を相手にする従来型のビジネスモデルは大幅に縮小する可能性が高まってきたといえる。
多くのビジネスが、利用者の状況を把握した上で能動的に働きかける売り方に移行しつつある。実店舗があるのかWebサイト上の店舗なのかはあまり問題ではなく、誰にどのようにして商品を売るのかという本質の部分が問われている。
この流れは、他の業界でも同じである。例えば製造業の分野では、3Dプリンタの普及によって、高度にカスタマイズされた製品を安価に製造することが可能となっている。スポーツ用品メーカーのアディダスでは、個人ごとにカスタマイズしたソール(靴底)を備えた量産品の提供をスタートしている。
あらかじめよく分かっている顧客に対して、高度にカスタマイズされた商品を提供するというスタイルは、製造業においても標準的となるだろう。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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