2015年7月27日以前の記事
検索
連載

日本は大丈夫なのか 米大使館を苦しめている「音響兵器」世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)

キューバで起きた奇怪なニュースが話題になっている。キューバに駐在する米大使館員の多くが体調不良を訴えていて、その原因が「音波」ではないかと指摘されているのだ。音波による攻撃とは一体どんなものなのかというと……。

Share
Tweet
LINE
Hatena
-
前のページへ |       

日本は大丈夫なのか

 想像してみてほしい。窓のない暗いコンクリートの部屋で、24時間絶え間なくヘビメタが大音量で流れる中に放置されたら、常人なら発狂するだろう。脳と身体機能が乖離(かいり)し、思考が阻害され、意思が削がれると米軍関係者が米メディアで指摘しているが、国際的な人権団体などはその手の攻撃は拷問に値する可能性があるとしている。

 米軍では特殊部隊のトレーニングの一環で、子供用テレビ番組の曲を大音量で45分ほど聴くというものがある。これはかなり過酷な訓練として知られているという。

 とにかく、こうした「音」を使った攻撃はすでに実用化されている。そして最近、キューバの米大使館に対して行われた可能性が取りざたされているのだが、ここまで見てきた通り、音波による攻撃で大使館員に健康被害をもたらすことはできそうである。

 一方で、もちろん現時点で原因は音波であると100%確定されたわけではないし、生物・化学系の何かが使われた可能性も排除できない。またキューバでロシアや北朝鮮などの別の政府が関与して米大使館に対して何らかの攻撃を行ったというケースも考えられ、そうなればキューバ政府は関係ないということになる。

 また現時点では、大使館員らの不調が音波を使った攻撃によるものだとする説を否定的に見ている専門家も少なくない。彼らは大使館のような環境では、大使館員の苦情にあった「脳損傷」まで引き起こすことは考えにくいとしている。

 ただいずれにせよ、現実にそうした攻撃が不可能ではないことは確かだ。そしてこれが現実として可能な攻撃であれば、日本だって対岸の火事では済まされない。最近何かと騒がしい北朝鮮が何かしでかす可能性も否定できない。

 2020年には世界的な大イベントである東京五輪やラグビーのW杯などを控える日本も、在キューバ米大使館問題の顛末(てんまつ)を注視しておいたほうがよさそうだ。

世界を読み解くニュース・サロン:

 今知るべき国際情勢ニュースをピックアップし、少し斜めから分かりやすく解説。国際情勢などというと堅苦しく遠い世界の出来事という印象があるが、ますますグローバル化する世界では、外交から政治、スポーツやエンタメまでが複雑に絡み合い、日本をも巻き込んだ世界秩序を形成している。

 欧州ではかつて知的な社交場を“サロン”と呼んだが、これを読めば国際ニュースを読み解くためのさまざまな側面が見えて来るサロン的なコラムを目指す。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 ノンフィクション作家・ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト研究員を経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。


前のページへ |       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る