市場を混乱させる「希望の党」の公約:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
10月22日投開票の解散総選挙はいよいよ後半戦に入った。与党有利と伝えられているが、選挙はフタを開けてみるまで分からない。今回の選挙では、希望の党がこれまでにない経済政策を打ち出したことで、結果によっては経済やビジネス環境が大きく変わる可能性が出てきた。選挙がどのような影響を及ぼすのか探った。
ベーシックインカムの実現は難しい
ベーシックインカムも実現性には疑問符が付く。ベーシックインカムとは、全国民が最低限の生活を送るために必要な金額を無条件で給付する制度である。
ベーシックインカムでは、最低限度の現金給付を行う代わりに、それ以外の社会福祉は原則として実施しない。全員に無条件でお金が給付されるので、原理的に不正受給の問題が発生せず、支給範囲内で生活できない人に対するケアは行われないことから、過度に福祉に依存する人もなくなる仕組みだ。
ベーシックインカムについては賛否両論があるが、最大の問題は財源である。以前、日本でベーシックインカムが議論になったことがあったが、当時、たたき台となったのは全国民に月8万円を支給するというプランだった(4人家族なら32万円)。
このプランを実施した場合、年間120兆円の予算が必要となり、現在の税収では実現不可能である。筆者の試算では、月5万円(4人家族で20万円)まで金額を減らし、生活保護や医療への国庫支出など、一般会計の社会保障費を廃止。さらに年金の保険料を全て税金として処理すれば理論的には実現可能である。
だが消費税が現行のままでは財源が不足するので、最低でも20%程度への引き上げが必要となる。また、医療に対する国庫補助がなくなるので、現状では3割の自己負担で済んでいる医療費が大幅に上昇するなど、社会には大きな混乱が生じるだろう。総合的に考えると、やはりベーシックインカムの実現には困難が伴うと言わざるを得ない。
希望の党が掲げている経済公約は、かなりの確率で実現できない可能性が高く、仮に政権の座についた場合は、議論が紛糾するのは確実だろう。経済や株式市場に対する不透明性が高まることは間違いない。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
関連記事
- 「AIアナウンサー」年間1000円の衝撃
エフエム和歌山が「ナナコ」と名付けたAIアナウンサーの運用を始めている。年間で掛かる費用は1000円程度だという。さまざまなAI機能が安価で簡単に買える時代、ビジネスの現場では何が起こるのか。 - 起業家にベーシック・インカム 岩手県遠野市が実験導入
Next Commonsと岩手県遠野市は、起業家に対して「遠野市に住民票を移すこと」などを条件に3年間のベーシック・インカムを導入するプロジェクトを始める。 - セブンの「ロイヤリティ引き下げ」が意味するもの
セブン−イレブンが、これまで「聖域」としてきたフランチャイズ(FC)加盟店のロイヤリティ引き下げを表明。コンビニにとって核心部分であるロイヤリティの見直しを実施しなければならないほど、セブンは追い込まれつつあるのかもしれない。 - 「営業」の仕事はAIでどう変わるのか
AIの普及によって営業の仕事が大きく変わろうとしている。10年後の社会においてセールスパーソンに求められる能力や評価基準は今とはまったく違ったものになっているはずだ。AI時代に営業のプロとして生き残っていくために必要なスキルとは……。 - 自分の価値を取引する「VALU」の存在価値は?
自分の価値を取引するという新しい概念を提唱した新サービス「VALU(バリュー)」。既に自身を“上場”した人は1万人を超えているそうだが、VALUとはどのようなサービスで、どのような可能性があるのか。改めて整理してみた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.