火星まで一気に100人送り込むSpaceXの新型ロケットとは?:宇宙ビジネスの新潮流(2/2 ページ)
宇宙ビジネスの世界で次々とイノベーションを起こす男、米SpaceXのイーロン・マスク氏が新たな野望をぶち上げた。
安全保障市場におけるシェア拡大
このように派手なコンセプトが目立つSpaceXではあるが、既存の打ち上げビジネスも着実に進展している。既に第1段ロケットの回収と再利用打ち上げに成功して大きなニュースを提供した同社だが、10月に大型通信衛星のEchoStarとIRDIUMを打ち上げる際には、2月に国際宇宙ステーション向けに物資輸送を行った際の機体を再利用した。
再利用ロケットによる打ち上げ成功は3回目であり、オペレーションが徐々に確立してきている。第1段の再利用をすることによるコスト削減インパクトは30%程度と言われているが、現時点では価格にはあまり反映されていないという。
また、次世代GPS衛星の打ち上げ契約を取得することで、安全保障市場に切り込んだ同社だが、9月には米空軍の無人スペースプレーン「X-37B」の打ち上げを初めて行った。これまでは米United Launch Allianceが運用する大型ロケット「アトラスV」で打ち上げが行われていた市場だが、米空軍としては実績のあるアトラスVと価格競争力の高いファルコン9の双方を併用することで、リスクとコストを抑える目的があると推察される。
将来的にはロケット打ち上げ以外の分野への進出も見据える。数百機から数千機の衛星で地球規模の衛星インターネットインフラを構築するプロジェクトでは、昨年ソフトバンクが10億ドルの出資を発表した米OneWebの取り組みが有名だが、SpaceXも同様のプロジェクトを「Starlink」という名の下に進めている。開発拠点を構える米シアトルで人材採用も進む。
多方面で猛進を続けるマスク氏とSpaceXの動向を注視したい。
著者プロフィール
石田 真康(MASAYASU ISHIDA)
A.T. カーニー株式会社 プリンシパル
ハイテク・IT業界、自動車業界などを中心に、15年のコンサルティング経験。東京大学工学部卒。内閣府 宇宙政策委員会 宇宙民生利用部会 委員。日本初の民間宇宙ビジネスカンファレンスを主催する一般社団法人SPACETIDE共同創業者 兼 代表理事。日本発の民間月面無人探査を目指すチーム「HAKUTO(ハクト)」のプロボノメンバー。著書に「宇宙ビジネス入門 Newspace革命の全貌」(日経BP社)。
関連記事
- マスクとベゾス、二大巨頭が挑む宇宙アクセス革命
SpaceX率いるイーロン・マスク氏と、AmazonのCEOでBlue Origin率いるジェフ・ベゾス氏。世界的なカリスマ経営者であるこの2人の巨人が今、宇宙ビジネスに新たな革命を起こそうとしているのだ。 - 夜間も悪天候も無関係、日本がリードする小型レーダー衛星とは?
世界で衛星ビジネスが盛り上がる中、カメラを用いて写真や動画を撮影する光学衛星とは違い、夜間も悪天候も関係なしに観測可能な小型レーダー衛星が注目されている。その開発をリードするのが日本なのだ。 - 1.2兆円産業の倍増図る日本の宇宙ビジョンとは?
政府の宇宙政策委員会 宇宙産業振興小委員会において取りまとめられた「宇宙産業ビジョン2030」。ここから日本の宇宙産業が目指すべき方向性を考えてみたい。 - 養殖を変える日本発衛星&遺伝子ベンチャー
21世紀は「養殖の時代」と言われる。既に天然漁獲高と匹敵しており、将来的には養殖が市場全体の3分の2を占めるという。そうした中、愛媛で世界の養殖産業を変え得る実証事業が行われているのだ。ユニークなのは、衛星技術とバイオ技術を駆使している点である。 - 地球規模の問題解決を目指すシンギュラリティ大学とは?
自然災害や資源不足など、世界には数十億人規模に影響を及ぼす問題が多数ある。そうした社会問題をテクノロジーなどの力で解決しようとするのが米シンギュラリティ大学だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.