ポップコーン会社の再建を 野球界から転身した男の奮闘:託された経営改革(4/4 ページ)
東北楽天ゴールデンイーグルスのチーム戦略担当、そして球団経営を担う一員としてどっぷりと野球界に身を置いていた男が異業種に飛び込んだ。現在、ポップコーン会社の経営再建に奮起する彼を追った。
外販ビジネスの拡大
9月9日、フロンターレの本拠地である等々力陸上競技場内にヒルバレーの販売ブースが出現した。スポーツチームとのコラボレーションイベントは同社にとって初めての試みで、結果的に大きな成功を収めた。
スタジアムで販売したのは既存店舗でも購入できるボックスタイプの商品だが、買い求める人の大行列ができたのである。
「注文を受けてからポップコーンをバッグに詰めるような従来のオペレーションだと、恐らく売り上げは半分程度でしたが、ボックスタイプは商品回転率が非常に良く在庫が足りなくなるほど売れました」
そしてまた、ブームが終わったといえども、ポップコーンに対する消費者のニーズは確実にあることを再認識した。この成果によって上田さんはスポーツ分野へのビジネス展開に大きな可能性を感じたのである。
ところで、なぜ第1弾がフロンターレとのコラボだったのか。実はヒルバレーの工場と等々力陸上競技場は同じ川崎市にあるどころか、2キロメートル程度しか離れていないのだ。
「こんな近くに同じ地元のスポーツチームがあるので、最初にコラボするならここしかないと思いました。フロンターレ側も乗り気で、お互いビジネスライクではなく、長い付き合いで取り組んでいこうとすぐに決まったのです」
現在はフロンターレに続き、横浜F・マリノスともイベントでコラボするなど、その活動を広げている。「まずは大阪や福岡など店舗があるエリアのチームと一緒にやっていくことで、単発の企画では終わらないように既存の店舗ビジネスと外販ビジネスの相乗効果を生みたいです。もちろんプロ野球チームともコラボしていきます」と意気込む。
外販ビジネスのもう1つの柱が映画館への提案である。ポップコーンと映画館の親和性の高さは周知の事実だろうが、実は映画館ではオペレーションに課題を抱えている。特に混雑する映画館だと、ポップコーンを購入するのに長時間待たされることはしばしば。そうした経験をした人も多いだろう。
「実はもっと売り上げを伸ばせるのに、その機会を逃しているのです。そんな映画館にヒルバレーのボックスタイプの商品はハマります」
既に大手シネコンであるイオンシネマとの協業は進んでいる。これは同社にとって大きなビジネスチャンスとなるし、ブランドの認知度もさらに高まるはずだ。
このように日本ポップコーンのビジネス改革、組織改革は着実に進んでいるが、今後に向けて社員一人一人の戦力アップがカギを握るという。
「いくらビジネスモデルが優れていても、結局、最後は人です。社員のモチベーションアップや育成といった部分が経営マネジメントの根幹だと思います。野球では育成のために若い選手を我慢して使うことがよくありますが、企業も同じです。新しい仕事を与えて、最初からできることはないのです。その状況を前向きにとらえられるかどうかが重要なのです」
今はまだ上田さんが前線に立って外部に営業したり、新しいアイデアを出したりすることが多いが、いずれ社員主導でそうしたことを当たり前のようにこなせるようになれば、同社のビジネスは一気にスケールするはずだという。その時に初めて上田さんが思い描く経営改革の大きなパズルが完成するのかもしれない。
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