ポップコーン会社の再建を 野球界から転身した男の奮闘:託された経営改革(3/4 ページ)
東北楽天ゴールデンイーグルスのチーム戦略担当、そして球団経営を担う一員としてどっぷりと野球界に身を置いていた男が異業種に飛び込んだ。現在、ポップコーン会社の経営再建に奮起する彼を追った。
自分の考えや戦略がぶれてはならない
イーグルス在籍中は、リーグ優勝、そして日本一という栄光をつかむことができたし、2年連続最下位の苦しさも味わった。チームに愛着はあったし、球団経営へのコミットメントも強かった。それでも、今シーズンの開幕直後、上田さんはイーグルスを離れた。
いろいろな理由があると言うが、1つにはほかの企業で経営のかじ取りをしてみたかったこと、もう1つは野球の世界からビジネスの世界へ人材をもっと輩出したいと考えたことだ。
日本ポップコーンを選んだのは、財務、営業、製造など経営全体を見渡すことができる会社の規模感であること、ポップコーンの味に絶対的な自信を持っていること、日本発のメーカーであることなどだ。「ヒルバレーというブランドはある程度認知されているので、今後は『Made in Japan』であることをもっと打ち出していきたいです。元々、商品の実力はあるのです。だから投資ファンドも買ったわけですから」と強調する。
8月に日本ポップコーンに入社すると、上田さんは初日から組織改革に着手した。これまで同社では社員間の情報共有がほとんどなされておらず、即座に必要な情報が現場から上がってこなかったり、新しいアイデアが出てこなかったりする風土だったため、そこから風穴を開けようとした。そこでまずは会議のやり方や業務報告の上げ方といった基本的なところから変えていった。「新しいことをやるためには、ビジネスを回すための仕組みが大事。とにかくその環境を整備しました」と話す。
例えば、会議では何を決めて、何を決めないか、工場や店舗から情報をもっと引き出すためにはどうすればいいか。そうした細部まで本部のスタッフとともに考えるようにした。
それと同時に全社員との面談を実施。各人が何を考えているのか、何をモチベーションに仕事をしているのか、そうした点をヒアリングした。面談の場以外でも常にコミュニケーションをとるように心掛けた。そうすることで、会社のビジョンを共有するとともに、社員一人一人がバラバラだったベクトルの向きを全員同じ方向にチューニングしていったのである。
ここで重要なのは、決して妥協してはならないということだ。これはイーグルス時代に上田さんが学んだことである。
「自分のやりたいことと、選手や監督のやりたいことは当然異なるので、最適な落としどころに向かってお互いのベクトルをずらしていく必要はありました。ただ、相手に迎合してばかりでは駄目で、自分の考え方や戦略をぶらさずにやることが肝心です。難しいけど、うまく自分の道すじに相手を持っていくのが楽しいのです」
こうした取り組みに対して社員も前向きなことから、組織改革は一気に前進しているという手応えを感じている。
この1〜2カ月間は社員にどんどんチャレンジする気持ちを持ってもらい、前を向く姿勢を身に付けさせている、いわば戦うための準備期間だった。ここからいよいよ会社として打って出ていくステージだと上田さんは言う。
その新しいチャレンジの1つが、Jリーグの川崎フロンターレとのコラボレーション企画である。
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