シンガポールが国土を丸ごと「3Dデータ化」する理由:データは都市をどう変える?(1/3 ページ)
国土の全てを3Dデータ化し、本物そっくりの都市を仮想空間上に再現するプロジェクトがシンガポールで進んでいる。市民向けサービスの改善が目的だというが、具体的にどのようなことが可能になるのか。
ビル、住宅、公園、道路、自然、そして人や車の流れ――。こうした国土に存在するもの全てを3Dデータ化し、本物そっくりの都市を仮想空間上に再現するプロジェクトがシンガポールで行われている。
シンガポールの面積は、東京23区と同程度の約720平方キロ。人口は約560万人で、人口密度の高さは世界トップクラスだ。市街地には高さ約200メートルの有名ホテル「Marina Bay Sands(マリーナベイ・サンズ)」や、240〜250メートル級のオフィスビルが立ち並んでいる。このプロジェクト「バーチャル・シンガポール」ではその全てを再現するというのだ。
バーチャル・シンガポールとは
バーチャル・シンガポールがスタートしたのは2014年。リー・シェンロン首相が推進する、デジタル技術を活用して国民の生活を豊かにする構想「スマートネイション」の一環だ。
プロジェクトを主導するのは、シンガポールの政府機関である国立研究財団(NRF)、シンガポール土地管理局(SLA)、情報通信開発庁(IDA)。また、ソフトウェア開発の仏Dassault Systemes(ダッソー・システムズ)が民間企業として唯一参加し、3Dモデル上でさまざまな都市向けシミュレーションが可能なアプリ「3D EXPERIENCity」を提供している。
シンガポールはなぜ、“国を丸ごと3Dデータ化する”という世界的にみても珍しい取り組みを進めているのだろうか。そして、この取り組みは国民にどのようなメリットをもたらすのだろうか――。仏Dassault Systemes(ダッソー・システムズ)で3D EXPERIENCity事業のバイス・プレジデントを務めるアレクサンドル・パリルシアン氏に話を聞いた。
シンガポールならではの課題を改善
パリルシアン氏は「人口密度が高く、都市開発が盛んなシンガポールでは、交通網の渋滞や建物の建設時の騒音が課題になっている。道路の整備なども進められているが、政府機関や省庁の連携が悪く、工事に無駄が多い点も問題視されている。バーチャル・シンガポールの目的は、こうした問題の改善だ」と説明する。
「仮想空間上に都市を再現し、3Dモデル上でさまざまなシミュレーションができるアプリを導入することで、道路やビルを新設した場合の車の流れの変化や、工事の進行度を可視化できる。こうした情報は、異なる省庁のスタッフがリアルタイムで共有できるため、渋滞緩和策の立案や工事の効率化につなげられる」(パリルシアン氏、以下同)
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