シンガポールが国土を丸ごと「3Dデータ化」する理由:データは都市をどう変える?(2/3 ページ)
国土の全てを3Dデータ化し、本物そっくりの都市を仮想空間上に再現するプロジェクトがシンガポールで進んでいる。市民向けサービスの改善が目的だというが、具体的にどのようなことが可能になるのか。
「仮想化」「可視化」「事業化」の3ステップ
プロジェクトは段階的に進められており、「Virtualize(仮想化)」「Visualize(可視化)」「Venturize(事業化)」――の3つのステップが設けられている。全ての段階を終えるのは18年の予定だ。
仮想化は、3Dモデルに建物の高さや面積、道路の長さ・幅・交通量などのさまざまな情報をひもづけることを指す。このステップに必要なデータの収集とインプットは、現時点でほぼ全てを終えているという。
「道路の幅・街路樹の間隔・壁の高さなどの情報は、公的機関が持つ設計データや画像から取得した。人と車の流れの再現に必要なデータは、歩道やバス・タクシーなどに取り付けたセンサーから取得した。シンガポールでは、小学生〜高校生のスマートフォンから位置情報を取得する実験を行っているため、若年層の行動データは特に充実している」
可視化は、国土の3Dモデルをスマホ、タブレット、PC、AR(拡張現実)・VR(仮想現実)端末などのデバイスで閲覧可能にすることを指す。事業化は、3Dモデルを活用して、実際に都市の問題を解決することを意味する。
コストをかけずに輸送と工事を効率化
では、こうした流れで作り上げた“国土のレプリカ”を活用して、具体的にどのような都市の課題を改善できるのだろうか。
パリルシアン氏は「輸送効率の向上と、都市開発における工事の効率化が代表的なメリットだ」と説明する。
例えば、あるバス停が特定の時間帯のみ混雑するという課題を抱えている場合、従来は試験的にいくつかダイヤを変更し、様子を見て新ダイヤを導入することが多かった。こうした方法はドライバーや市民の混乱を生みやすかったが、3Dモデルの活用によって防止できるという。
「官公庁は、仮想空間上でさまざまな運行パターンをシミュレーションした上で、最も輸送効率の良いダイヤを一度で決められる。度重なるダイヤ変更によって、住民やバスのドライバーに負担を強いることを避けられる」
道路工事を行う際は、工事の情報やシミュレーション結果、進捗状況などを複数の官公庁で共有できる。そのため、異なる機関が同じ場所で工事を予定している場合は、工事を同時に進めるなどの柔軟な対応が可能だ。車や人が混み合うことなく通行できるルートを算出することで、最も渋滞が起きづらい形で通行止めの場所と時間も決められるという。
「官公庁間の連携が悪いシンガポールでは、異なる機関が同じ区域で工事を行う場合に協力体制を築くことができなかった。例えば、ある機関が水道管の工事を、別の機関がガス管の工事を予定していた場合、水道管工事の終了後に一度埋めて、ガス管工事の際に再度掘り起こすなどの対応が一般的だった」
「3Dモデル上で工事のシミュレーション結果を共有すれば、2つの工事を最適な形で同時に進めることができる。無駄な時間とコストを削減できるだけでなく、工事による騒音の低減にもつながる」
輸送や工事にとどまらず、建物に設置した太陽光パネル、携帯電話の基地局、水道管などの最適な配置パターンを仮想空間上でシミュレーションすることで、市民により良い社会インフラを提供できるという。
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